『ストレスフリー超大全』の著者で精神科医の樺沢紫苑さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「このリアリティ、具体性は当事者の経験あってのもの。精神科医や研究者には、絶対に書けません」と絶賛しています。
今回この二人の対談が実現。医師、当事者、それぞれの立場から、発達障害に悩む人たちに伝えたいことを語ってもらいました。(取材・構成/加藤紀子、撮影/疋田千里)
発達障害は「長所」として生かせるのか?
樺沢紫苑(以下、樺沢) 発達障害という名前が一般的になればなるほど、「ラベル」がつけられる弊害を感じるようになりました。
そもそも昔は、少々やんちゃで落ち着きがなくても、「そういう個性の人」として学校やコミュニティの中に受け入れられていたと思うんですけど、逆に今はインクルーシブな(多様性を認める)社会を目指すと言いながら、ADHDとかASDといった名前が付けられることで、現実にはむしろ区別されるようになっているのではないかと。
借金玉 そうですね。「区別される」一番わかりやすい場所が、職場だと思います。だから僕は、発達障害の診断を受けてもそれを会社に伝えることにはかなり後ろ向きです。これも非常に難しいところではあるんですけれど。
樺沢 僕も正直、医師が診断書を書くことにあまり意味を感じません。企業側に明確な対策があればいいのですが、なかなか難しいので……。
一方で、発達障害の症状は単に尖った性格だと捉えればよくて、それをうまく活用できれば長所になります。天才、偉人、社会的な成功者に発達障害の例は多く、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズもADHDと言われているくらいですから。
ADHDに向く職業は、借金玉さんのように、自主的に動き回る営業職や、閃きや企画力、行動力が求められる起業家などが挙げられます。借金玉さんは、当事者としていかがですか?
借金玉 ADHD(注意欠如・多動症)である私は20代で起業をしまして、そこでドカンと失敗して2000万円の借金を抱えることになったので「借金玉」なんですが、衝動的に動けるという意味では起業家は向いているかもしれません。いやそんなことないかな……起業はスッテンテンにお金がなくなってもいいっていう人向けです……(笑)。
その後に飛び込んだ不動産営業の世界は、顧客という“獲物”を追いかけ、結果を出しさえすれば、途中にミスや失敗をやらかしてもさほど怒られないという点で、自分には心地よい場所でした。
反対に、大学卒業後すぐに就職した大手の金融機関では、何ひとつ仕事ができないまま2年ほど働いて退職しました。「1億円」と書くべき書類に「10億円」と間違えて書いてしまいましたね、ゼロの数がどうしてもちゃんと書けなかった。だから、「障害は個性」みたいな考え方にもそれはそれで「うーん、障害だよなぁ……」という気持ちがあります。
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。最新刊は『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)。シリーズ70万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、16万部『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、10万部『神・時間術』(大和書房)など、30冊以上の著書がある。
YouTube「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」