発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年8月2日の記事の再掲載です)。連載一覧はこちら。
発達障害には二次障害という恐ろしい付随物がついてきます。
この二次障害というのは、発達障害に起因する苦しみの中で副次的に精神疾患等の問題を発症してしまうことをいいます。僕の人生の大問題である双極性障害(躁うつ病)もおそらくは二次障害です。小学生の頃、学校に適応できないまま通い続けるうちに発症し、気づけばもう25年ほどの付き合いになってしまいました。
正直なところ、「せめて双極性障害だけでも回避できていれば」という気持ちは強くあります。障害による問題と、そこに疾患が上乗せされた場合に発生する問題はかなり大きさが変わってくるからです。
何もするな、この文章も読むな
うつの苦しみの中で、今この文章を読んでいるあなたは、きっと「人生をよくするために何かをしなければいけない」と焦燥感に駆られているのではないのでしょうか。あるいは、「自分は何もできていない」というような自責の感情もあるかもしれません。しかし、うつの底という本当に厳しい状況でやるべきことは、常にひとつしかありません。それは、「何もしない」ということです。あるいは「横たわって眠る」ということです。
うつの底は、吹雪の吹き荒れる原野のような場所です。そこでは、雪洞の中で身を縮めて、吹雪が去るのを待つことしかできません。吹き荒れる雪の中に無理やり漕ぎ出していくのは、あまりにも危険な選択です。そんなことは絶対にするべきではありません。
それはつまりこういうことです。うつの底で、今日も1日何もできなかった。だとしたらあなたは、1日を雪洞の中で身を縮めて耐えるという最も重要な行動を間違えることなく完遂したのです。それは、前向きで堅実な確かな選択そのものでした。今日を生き延びたあなたは、登頂に挑む晴れた日を待ち続ける登山家のように、人生と戦っています。どうか、自分を責めないでください。
「吹雪のお供」は甘い紅茶の入った魔法びん
僕の本も含め、世の中の自己啓発書には「やったほうがいいこと」がたくさん書いてあります。でも、それはうつの底という状況でやらなければいけないことではありません。うつ状態というのは、人間の思考力を驚くほどに奪います。本1冊すら読み通せないというようなこともあたりまえに起きてきます。僕もかつては、うつの底で「せめて勉強くらいしなければ」「せめて本くらい読まなければ」とあがいて、より一層苦しむ悪循環をくりかえした時期がありました。
もし、どうしても具体的な工夫を何かしたいのであれば、Amazonで魔法びんをひとつ買いましょう。そして、砂糖をたっぷり加えた甘い紅茶を詰めて枕元においておくんです。次に目を覚ましたときにそれを飲みましょう。そして、魔法びんが空になったときに、紅茶をまた詰める気力があればそれを補充しましょう。吹雪の日を耐えるお供にはこれが一番です。
すべては、吹雪がやんで青い空が見えてから。うつの底を抜け出してからです。そして、そしていつかどこかで、それはきっと暖かな昼下がりで、いろいろあったけどなんとかなった、そんな話をしましょう。