枠から外れたら「ダメな生徒」

借金玉 病院神話ですね。さらに、病気をつくっている可能性というと、世間の価値観の影響も大きいと思います。やっぱりまだ一般的には、指示されたことを忠実に実行する、きちんと毎日学校に通って就職をして……というレールから外れてはないけないという考え方が根強く、そこに生きづらさを感じてしまっている人がすごく多いと思います。子どもならなおのこと、ADHDのようにじっと座っていられない子に、6時間座って静かに授業を聴けというのは現実的に難しい。だから、まずできることをした方がいい。

樺沢 ADHDの子を座らせずに、立ったまま授業を受けさせたら最後までちゃんと聞けたという研究結果もありますよ。でもみんな一律で「大人しく座っていなさい」と言われるから、周囲と同じことができないと問題児だと見なされてしまう。

借金玉 僕も幼少期から青年期にかけては、「普通にやらなきゃ」という気持ちと、「普通じゃなくても結果は出せる」という気持ちとの間にいつも葛藤がありました。

現実問題として、「決められた授業を受ける」のが相当厳しかったので、小学校から不登校気味で、学校にまともに通うことができませんでした。ただし、自力で学習できましたし、中でも興味のあることに関しては自分でガンガン掘り下げられました。

つまり、勉強するだけなら毎日学校に通って周囲と同じことをし続ける必要はなかったと思いますし、高校も辞めておけばよかったなと後悔しているところがあります。

樺沢 子どもを枠組みにはめてルールから外れると、ダメな生徒とみなされる。そういう学校教育は発達障害傾向のある人にとってはなかなか辛いですよね。だからこそ、仮に今行っている学校に行けなくても、できるだけラクに生きていくための手段として、ネットで授業が受けられる学校など、広がりつつある選択肢の中からその子に向いているところを選ぶことが大事ですね。

借金玉 最近の発達障害者の武勇伝に、「小学校で学級を破壊して、特別学級に放り込まれた」みたいなのが増えてきました。「発達障害」と明言してはいませんが、ラッパーの輪入道さんの本にもそんなことが書いてありましたね。僕自身は普通学級で親や学校から「普通になってほしい」と期待され、「なんでできないんだ」「なんでやらないんだ」と言われてもできなくて、ものすごく苦しかったので、あの頃特別学級に入れてもらえていたらずいぶんラクだっただろうなと思います。

特別学級に通っていた人でも今、社会で楽しくやっている人はたくさんいるので、本人がその方が生きやすい方を選ぶべきですね。

樺沢 集中できなくて勉強についていけなくなり、特別学級に行くことになっても、特別学級には少人数でかなり手厚くやってもらえるという利点もあります。症状が落ち着いてくれば普通学級に戻る子もいますし、教育という意味では悪くはないと思います。もちろん、特別学級に入ったこと自体で落ち込むケースもあるので、どちらに進むのがいいかは、ケース・バイ・ケースです。

「ダメです、助けてください!」と言おう

借金玉 子どもの頃など、比較的早い段階で「発達障害かも」と思われる兆候が見られた場合、医学的に症状が改善できるTO DOとしてはどんなことがお勧めですか。

樺沢 動きが複雑な運動や楽器は良いですよ。発達障害で先天的に足りていなかった神経の数を、脳トレ的な要素がある運動や楽器に取り組むことで、後天的に補えるということがわかっています。脳の神経を成長させるBDNFという物質が出るため、脳内のネットワークが拡大していくのです。

脳トレ的な要素がある運動というのは、動作が次々と指定されたり、相手の動きを瞬時に把握して自分の動きを決めたりするようなダンスや体操、武術などです。集中力がアップしたり、じっとしていられる時間が長くなったという研究結果も出ています。

また、一人で悩まず、誰かに相談するというのも、発達障害的な人が生きていくには欠かせないスキルです。相談できないままこじれてしまって、困り果てるパターンが多いので。

借金玉 僕もよく、発達障害者には、「バンザイしろ!」っていうんですよね。もうダメなら、「ダメです、助けてください」って言った方が絶対にいい。起業していた頃、収入を得るためには欠かせない請求書の発行という事務作業がどうあがいてもできなくて、最後には取引先にお願いし、僕の請求書のひな形を向こうの会社に置いてもらったりしました。

発達障害はなくならないし、自分は根本的に変えられません。というか、自分が変わる必要はありません。それよりも、できないことはできないとバンザイして、周囲に助けを求める。そして、やり方、道具、環境を変えることで、幸せになるサバイバル術を身につけることが大事だと思います。

樺沢 このリアリティは、当事者の経験あってのものですね。借金玉さんのユーモアあふれる「発達障害対処法大全」とも呼ぶべき1冊で、発達障害の人に限らず、日常生活に生きづらさを抱えている一人でも多くの人に、ポジティブに悩みを解決してもらえたらいいですね。

精神科医が「発達障害でむやみに病院に行くべきでない」と語る理由【5月病に効く記事】樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。最新刊は『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)。シリーズ70万部の大ベストセラーとなった著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』『学び効率が最大化するインプット大全』(サンクチュアリ出版)をはじめ、16万部『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、10万部『神・時間術』(大和書房)など、30冊以上の著書がある。YouTube「精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル」