発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年11月5日の記事の再掲載です)。
汎用性の高い「型」を覚えよう
服というのは「社会的コード」そのものです。社会的コードとは、「あなたはここがどういう場所なのか理解して、その場に見合った振る舞いをしてくださいね」という見えないメッセージのこと。インターネットを眺めてみると「社会人として正しい着こなし」みたいな記事がたくさん出てきますし、それらはだいたいのところ正しいのですが、それでも現実問題を言うと「正しい着こなし」は所属する集団によって規定されるものです。ある場所で正しい着こなしはある場所で間違いになる、そういうことはとてもよくあります。銀行員は銀行員ぽい服を、広告代理店の人は広告代理店ぽい服を、IT社長はIT社長っぽい服を着ていますよね。
空気が読めない発達障害者の僕らは、これを読み取るのが大変苦手です。
僕もできればジーンズにシャツで毎日暮らしたいのですが、実際のところはそうもいきません。また、ASD傾向の強い方は独特の譲れないこだわりを持っている場合も非常に多く、それらと社会的要請をすり合わせるには非常に苦労するところがあります。
では、あらゆる社会的コードに対応できる便利な服とは何か。僕の長年の研究の結果、その答えは「ビジネスカジュアルスタイル」と結論づけられました。
あ、すごく嫌な顔になった方いらっしゃいますよね。はい、わかります。スーツならともかく、ビジネスカジュアルって意味わかんねえよってやつですよね。ネットで調べてもなんかあいまいなことが書いてあってイラつきますね。安心してください。そこにも答えが出ています。
ビジネスカジュアルスタイルをめちゃくちゃ雑に要約すると、
「ジャケット+シャツ+パンツ+カジュアルすぎない靴(とりあえず、紐のついた革靴、もしくはローファーだと思えばいいです)」
の組み合わせのことです。まずはこの「型(組み合わせ)」を覚えて帰ってください。
私服も仕事も、最悪なホームパーティーにも使える
このビジネスカジュアルスタイル、業種によっては「仕事着」にもあるいは「私服」にもなり、オフィスはもちろん、会食、デートなどのプライベートでも使えます。不意にドレスコードのあるレストランに行くことになってもひと安心の服といえます(「会社にはグレースーツにワイシャツで来い」というお仕事の場合は使えませんが、それは悩む必要がないのでいいですよね)。
たとえば、想像してみてください。会社の部長クラスに、突然ホームパーティーに呼ばれてしまった。本当に最悪のイベントです。しかし、バックレるわけにもいきません。さて、あなたは何を着て行けばいいでしょうか。ジーンズにシャツというわけにはさすがにいかないだろう、しかし休日のパーティーでスーツというのもいかにもまずそうだ……。こうした最悪かつ難易度が高いイベントにも対応できます。
僕はもう、これが便利すぎるので基本的に私服も仕事もビジネスカジュアルで固めてしまっています。だってラクなんだもん!
点ではなくて「型」で考える
具体的にどんなジャケットを買うか、シャツは何色がいいのか、と迷ったときの一番簡単な方法は、紳士服店(原宿のおしゃれ服屋と違って周囲にはおっさんしかいません。安心です。僕は身体が大きいのでサカゼンさんを愛用しています)に出向いて、「ビジネスカジュアルで揃えたいのですが、一番無難なジャケットとスラックスの組み合わせをください」といってみることです。紳士服の店員さんは、何でも教えてくれます。
あとは、そこで買ったアイテムに合わせてバリエーションを増やしていきましょう。注意点としては、ジャケットだけ、シャツだけの「点」では考えず、あくまで「ジャケット+シャツ+パンツ」の「型」(組み合わせ)で考えるのが、混乱しないコツです。きちんとしたいならスラックス、ちょっとカジュアルめにしたいならチノパンという感じで応用してみてください。
「おしゃれ」をしようとするのはとても難しい。でも、「どこに行っても大丈夫な服を着る」のはそう難しくないのです。これさえ習得すれば、もう何を着ていくかで困ることはないでしょう。