『ストレスフリー超大全』の著者で精神科医の樺沢紫苑さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「このリアリティ、具体性は当事者の経験あってのもの。精神科医や研究者には、絶対に書けません」と絶賛しています。
今回この二人の対談が実現。医師、当事者、それぞれの立場から、発達障害に悩む人たちに伝えたいことを語ってもらいました。(取材・構成/加藤紀子、撮影/疋田千里)
発達障害は、薬では治らない
樺沢紫苑(以下、樺沢) 僕のところに来る相談で多いのは、「どんな薬が効くか」とか「何を食べたら治るか」とか、みんなラクをして治す方法を聞いてくるんです。でも、繰り返しになりますが、発達障害が完治することはないんですよね。
つまり、日常を生き延びるため、少しでもラクに暮らしていくためにどうしても必要なところっていうのは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』に具体的に出てくる、大事なものをなくさないようにキーファインダーを付けるとか、メモを書いてもそのメモがすぐになくなるから1メートル以上の大きなホワイトボードを置くとか、ささやかで地道な努力の積み重ねが一番効くんですよ。
借金玉 僕も薬は飲んでいます。大学時代にADHD(注意欠如・多動症)と診断され、現在はコンサータという薬を処方されています。もちろん、多動を抑制するという点で効果を感じてはいますが、だからといって万能薬ではありません。でも、コンサータさえ飲めばなんとかなるって思っている人が結構多くて、実際を言えば効果はあくまで補助的なもので「治る」わけでは全然ないんですけどね。
樺沢 一般的に日本人は薬好きですね。薬を出さないと怒りだす患者さんもいるくらいです。「こないだ病院に行ったら薬が出なかったのですが、どうして出なかったのか不安です」といった相談も来ます。
借金玉 薬を出さないという判断ができるのは「名医」だからですよね。
樺沢 そうそう。本当にその通りです。医者は薬を出した方がお金になるし、患者もたくさん薬をもらうとなんだかそれだけで治るような気になれる。なのにあえて、薬を出さなくても大丈夫と言うのですから、その医者は名医なんです。もちろん、薬は不要という判断ができるにはそれなりの経験を積む必要があるので、そう言い切れる医者は多くはないでしょうね。
借金玉 患者側としては、飲むこと自体に安心感も出てきちゃうんですよね。僕自身、依存症もやらかしていますので、薬の怖さは痛いほどわかります。「とりあえず飲むとうれしくて安心」というところは絶対にある……。
樺沢 医者によってはたくさん薬を出す人もいるので、特にお子さんの場合は、発達障害かもしれないと思う症状が多少見られても、日常生活が普通に送れているのであれば、無闇に病院に連れて行かない方がいいというのが僕の考えです。病院での診断というのはやはり重めの方に傾くので、多少グレーゾーンでもとりあえず病名を付けて、薬を出して治療しておこうってことになりやすいです。
僕の本『ストレスフリー超大全』の中に「メンタル疾患はグラデーション」という図を入れていますが、まさに発達障害の症状が非常に重い、グラデーションの濃い部分に当たる人に対しては薬物療法はものすごく良いと思う一方で、グレーゾーンから発達障害“的”な、グラデーションがそこまで濃くない人にまで同じような対応をするのは、病院に連れて行かなければそのうち治っていたかもしれないものが、かえって病気をつくっている可能性もあるんです。
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。