先行きが不透明なコロナ渦。変化に対応すべきなのはわかっているが、具体的にどうすればいいのか?
そんな人に読んでほしいのが、東大卒プロゲーマーときどさんの著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』だ。本書では、格闘ゲームの環境の変化によって、全く勝てなくなったときどさんのV字回復の軌跡を紹介。「圧倒的に変化が激しい」eスポーツの世界で戦うために必要なことを突き詰めていくと、ビジネスの世界でも応用できるエッセンスが見えてきた。

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失敗したのはインプットのせいか、アウトプットのせいか

 僕は常に試すことで問題点を発見し、原因を探っていきます。この原因追求においては、「速さ」を優先し、あまり時間をかけないことが大切です。すぐに答えが出ない場合は考えが迷いに変化して、時間を浪費してしまうためです。

 そんなときは、おおよその当たりをつけてやり直してみる。わかるまで試すことを繰り返す。2度3度とやっているうちに原因もはっきりしてくるものです。考えてもすぐには答えが出ない。そんなときも、試してみた方が早いのです。

 なぜなら、そもそも試すことに原因追求の側面があるからです。それが正しい理解に基づいて習得できているのかどうかは、頭でいくら考えても本当にはわかりません。やってみなければ実際にはわからないことだらけ。だから、さっさと試して確認する。試すことそれ自体が、早くて正確な検証でもあるのです。

 失敗した原因を、僕は次の2つに分けています。

・そもそもの理解が不足している
・理解したことを表現できていない

 受験勉強なら解答の方向性すらわからない。格闘ゲームなら行動そのものの選択を誤った。これらはそもそもの理解不足からきており、「インプット→アウトプット→フィードバック」のプロセスのうちの、「インプット」の問題になります。

 試験問題は理解していたのに解答欄にそれを書けなかった。頭の中で選択しようとした行動は正しいのに、画面上では操作ミスをしてしまった。理解はできているのに表現ができていない。これは「アウトプット」の問題です。

「練習ならできたのに」はできていない

 ただし、「理解はできているのに表現ができなかった」と思いがちな人に気をつけて欲しいことがあります。

 100%理解したと思っていても、試してみたら70%しか表現できない。そんなことはいくらでもあります。

 例えば試験で「きちんと理解しているのに間違えた」という経験は誰にでもあるでしょう。格闘ゲームなら練習ではミスしない攻防で、失敗したりもするわけです。そんなときにたまたまケアレスミスをしただけと考えて、きちんと振り返らない人は多いのではないでしょうか。もうほとんど習得できていて、たまたま失敗しただけだ。そう考えているからです。しかしそれは、70%の理解でしかないのです。理解はできているのに解答欄に書けなかった。そうではなく、「理解できたつもりになっていた」ということです。

 どんなに理解しているつもりでも、それが表現されていないと伝わらない。解答欄に答えを書けなければ試験官も採点のしようがありません。勝負の場で普段やらない操作ミスをすれば、それが原因で勝てる試合を落としたりもします。それは誰のせいでもなく、自分の責任によるものです。

 意図しない技が出たから負けた。意図した技が出なかったから負けた。大会で負けた僕がこんなことをいったとしても、誰も相手にはしてくれません。表現に至らなかった意図がどんなに正しかろうと、ただの泣き言になってしまうのです。

教えることで、現状の理解が試される

 失敗を次につなげる上で最も大切なことは、画面上で行われている自らのプレイ内容を理解することです。「現状の理解」こそが、応用の土台になるからです。

 理解を深めるときに、最も有効な方法があります。それは「人に教えること」です。これは勉強など、物事の理解についてのアウトプットの中でも、究極の形かもしれません。どんな相手にも伝えられる表現。相手の理解や素養に合わせた表現。いずれも必要なことであり、自らの理解が試されます。

 他の誰かとコミュニケーションを取りながら練習する場があると、この「教える」力が自然につきます。僕が毎日対戦会に通う理由のひとつが、ここにあります。

 ある日伸び盛りの若手プレイヤー、りゅうせい選手と対戦をしていたときのこと。彼がなかなか僕に勝てなかったことがありました。そつがないし場面の判断も悪くないのですが、要所で勝ち切れない。相談されて自分なりに検証してみたところ、ディフェンスの意識が強すぎると感じました。

 りゅうせい選手の使うユリアンというキャラクターは、エイジスリフレクターという必殺技を絡めた強力な連携が特徴ですが、全体としては守りながらカウンターで対応するのが基本の戦術です。また、彼自身が堅い守りで上位に上がってきたプレイヤーなので、ディフェンス偏重になるのは無理もないことでした。

 そこで僕は、「このキャラクターの組み合わせはそちらが対応する側だから、守りが基本なのはいいと思う。でもそれだけだと攻め込まれる時間帯も増えるから、ときには先手を取って飛び道具を使用したり前ダッシュをすることを意識してみてはどうだろう」と伝えました。守りというのはそれ一辺倒ではかえって難しくなるものです。特に同格以上の相手と戦う場合、攻める気持ちがないと押し込まれやすい。守りのリズムを作るためにも攻める。それを意識したらどうかと伝えました。

 しばらく対戦していると要領がつかめてきたのですが、今度は攻めることを意識しすぎて、得意の守りが雑になってしまいました。そこで「相手に攻めを意識させたら、すかさずカウンター狙いに切り替えてみて」と助言しました。

 すると徐々に、余裕を持って崩せていた彼のディフェンスが堅固なものになっていきました。そうなると今度は僕が相談する番です。彼のディフェンスを崩せなくなった理由を自分なりに説明し、アドバイスをもらうのです。

「自分にもメリットがある」から教える

 僕とりゅうせい選手は大会本番では、互いに勝利を奪い合う関係です。

「自分が勝っていたのだから、相手の弱みは黙っていた方が得ではないか?」
「りゅうせい選手が親切な人だから、たまたま教え合うことになっているだけでは?」
と思う人がいるかもしれませんが、それは間違いです。

 まず、教えた時点で僕自身のトレーニングになっています。画面の中で発生している状況を説明する。これは理解をアウトプットする訓練そのものです。教える過程で言葉にできないこと、言葉にしづらかったことがあれば「ああ、ここがわかってなかったんだな」と気づきますし、説明の努力をする過程で「こういうことだったのか!」と気づくこともできます。

 そして、自分の理解を正しくりゅうせい選手に伝えることで、彼のプレイ内容は次の段階に進みます。進めばこちらはそれに対応しなければなりません。

 僕がりゅうせい選手にアドバイスをする一番の目的は「インプット→アウトプット→フィードバック」のサイクルを速く回すため、つまり自分のためなのです。りゅうせい選手にアドバイスをしなくても、彼のプレイはこれから進歩していくかもしれません。しかし、それを待っているよりも、こちらがその進歩に協力することで、「自分の」サイクルを速めることができるのです。

 また、りゅうせい選手がこちらに教え返すのも、彼が親切なだけではありません。立場を逆にして考えればわかることですが、りゅうせい選手にとってもこちらのプレイ内容が進歩することに、同様の利があるわけです。結局、互いに教え合うことが、合理的な判断だということになるのです。

(※この記事は『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』からの抜粋です)