新生児糖尿病のメカニズム写真はイメージです Photo:PIXTA

生後6カ月未満に発症する新生児糖尿病。日本ではまだ臨床現場に対応が浸透していない。治療法を発見した福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の下村健寿主任教授によると、日本人の成人に多い2型糖尿病や自閉症の治療につながる可能性がある。下村教授へのインタビューをお届けする。(聞き手/医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)

新生児に特に有効な治療薬がある

Q(高橋):糖尿病の薬物治療の課題や問題点は何でしょうか。

A(下村教授):大人における糖尿病治療の最大の問題点は、多くの患者が長きにわたる治療で症状が悪化し、最終的にはインスリン注射という患者のQOLにとっても医療財政的にも厳しい状況に陥ってしまうことです。

 最初期の治療である食事療法と運動療法のみで血糖をコントロールできれば、それに越したことはありません。しかし、食事療法は人間の根源的な欲求である食欲のコントロールを長期にわたって要求します。そのため、多くの患者は予想以上の苦痛を強いられ、脱落してしまう現実もあります。

 せめて、インスリン注射の前段階である内服薬によってコントロールすることが出来れば、糖尿病治療にとって大きなQOLの改善となるのではないでしょうか。

 新生児糖尿病の治療に関しては、従来行われていたインスリン治療から内服薬であるSU剤に切り替えることが可能です。切り替えに成功した患者さんたちは皆、注射から解放されて喜んでいました。

Q:薬の効果と副作用を教えていただけますか。

A:糖尿病治療の内服薬にはいろいろな種類があります。DPP4阻害薬、メトホルミン、SGLT2阻害薬などが代表的なものでしょうか。その中で歴史も古いのが、新生児糖尿病治療に有効なSU剤です。

 SU剤は、インスリン分泌を促す非常に有効な薬ではありますが、現場で臨床に携わる医師にとっていくつかの難点があります。一つには、SU剤はインスリン分泌を血糖値に関係なく惹起することからインスリンが多量に分泌されてしまい、必要以上に血糖が降下する低血糖が副作用として起こり得ることです。低血糖の副作用は処方する側としても避けたいので、近年SU剤の使用は敬遠されがちですが、うまく使うと大変有効な薬です。

 新生児糖尿病の患者は、まだ幼いにもかかわらず、遺伝子変異で閉まりにくくなったKATPチャネル(変化を興奮に置き換える代謝センターの役割)を閉鎖させるために大人の糖尿病患者のSU剤の容量を超えた量を服用します。当然、副作用である低血糖の発生頻度が高くなっても不思議ではありません。

 ところが、SU剤を服用した新生児糖尿病の患者は、ほとんど低血糖を起こしません。通常、生まれてすぐに高血糖を呈し、速やかに遺伝子診断を行ったとしても、診断がつくまで1~2週間の時間がかかります。

 その間は一時的にインスリン注射による治療が行われますが、新生児糖尿病の患者の場合、このインスリン治療を行っている間のほうが低血糖の発生頻度が高く、SU剤に切り替わると低血糖がほとんど発生しなくなってしまいます。

Q:その他にSU剤が敬遠されてしまう理由はありますか?

A:SU剤のもう一つの難点は、二次無効(長く飲み続けていると薬の効果がうすれてくること)です。長い間SU剤を使って治療していると薬の効きが悪くなってしまい、増量を余儀なくされることがあります。

 しかし、新生児糖尿病の子供たちは現在までの経過を見る限り、SU剤使用による治療期間が長くなれば長くなるほど、服薬量を減らしていける傾向があります。これは大人の糖尿病における二次無効とは逆の展開です。

 これらの効果の詳細なメカニズムはまだ明らかになっていません。このメカニズムを解き明かせれば、内服薬による大人の糖尿病治療の問題点を大きく改善できる可能性があります。