生後6カ月未満に発症する新生児糖尿病。日本ではまだ臨床現場に対応が浸透していない。適切な治療を適切なタイミングで受けられず、多くの患者と家族が苦しんでいる。英国オックスフォード大学研究員時代に新生児糖尿病の治療法の発見という世界的快挙に貢献した福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の下村健寿主任教授に最新の知見を聞いた。(医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)
寝たきりのケースも
20万人に1人の新生児を襲う難病「DEND症候群」
2021年3月、福島県立医科大学病態制御薬理医学講座の下村健寿主任教授の研究チームは、英国オックスフォード大学との共同研究の成果を米国科学誌「Scientific Reports」に掲載した。タイトルは「骨格筋におけるDEND症候群発症変異型KATPチャネルの構造に基づく解析」。
「DEND症候群」とは、生後6カ月未満に高血糖を来す新生児糖尿病の重症型で、20万人に1人といわれる難病だ。下村教授らはこの新生児たちに認められる「低筋力症状」に対する新たな病態機序(病気ができあがっていく仕組み)を明らかにした。低筋力症状は従来、脳由来で発症すると考えられていた。だが今回の研究で、低筋力症状が筋肉そのものにも原因がある可能性が世界で初めて示唆されたのだ。
新生児糖尿病とは、文字通り新生児(生後6カ月未満)に発症する糖尿病である。血糖の上昇だけでなく、重篤な筋力の低下や脳神経症状(精神発達遅滞、筋力の低下、てんかん発作など)を伴うケースがあるのが特徴だ。
体全体、手や足を動かす骨格筋は、自分の意思で動かせ、迅速に強い力を発揮できる。だが生後まもなくの新生児にDEND症候群が発症すると、骨格筋を自分の意思で動かせなくなり、ひどい場合は寝たきりになる。
これから歩き始めて筋力が鍛え上げられるという時期に、つらい症状だ。ハイハイや自立歩行がいつまでもできない。これは成長が遅いのではなく、非常にまれな遺伝子変異によるDEND症候群の症状なのだ。