この時代、『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』、そして宮崎駿第一回映画作品の『ルパン三世 カリオストロの城』など、のちにレジェンドとなる作品の多くが、公開当初はコケたことが知られています。それと同じ現象であることから、これがこの時代のある種のブロックバスター的なヒットの法則だったのかもしれません。

 メジャーではないけれどもカルト的な人気を誇り、それでファンの間に待望論が高まり次回作が製作される。

『古畑任三郎』の場合、1年後に2時間のスペシャルドラマが作られ、それがヒットしたことで弾みがつき、1996年の第2シーズンでは平均視聴率25.3%と、押しも押されもせぬ人気コンテンツへとのし上がっていきました。

 田村正和さんの演技力のすごさを感じた回の話をしましょう。第17話では、犯人役の木村拓哉さんと対決します。この話での木村さんの役どころは頭脳犯かつ完全な敵役で、ドラマが成立する上で、木村さんの悪としての存在が際立っていることが必須条件でした。

 その終盤で、田村さんが木村さんを張り倒すシーンがあります。このシーン、正義が怒りにまかせて悪を張り倒す刑事ドラマの典型的な演技ではまったく印象に残らない、非常に難しいシーンだったと思います。

 このシーンで田村さんはクールな古畑任三郎が一瞬、炎のような怒りを見せて犯人を張り倒し、視聴者がその怒りに凍りついた瞬間には、もう普段のクールな古畑任三郎に戻ってみせるという神がかった演技を見せました。存在感のある木村拓哉さんの犯人役とのマッチアップで、日本のドラマ史上に残る名シーンを演じたといえるのではないでしょうか。

 他にも歴代の犯人役にはイチローさん、石坂浩二さん、山口智子さん、松嶋菜々子さん、津川雅彦さん、福山雅治さんなど名前を挙げればレジェンドとの名対決ばかり。私もたまに見たくなって、1時間ほど以前録画したものを見ることが今でもよくあります。

『古畑任三郎シリーズ』は、それまで独特な風貌の二枚目俳優として恋愛コメディードラマの常連だった田村正和さんが、ミステリードラマの主役として活躍する転機になった作品ともいえそうです。

 その後は『明智小五郎対怪人二十面相』での明智小五郎役や松本清張のドラマスペシャルなどで、複雑に絡み合った謎を解いていく役どころなど、個性的な事件の解明役で、田村正和さんの名演技を楽しめるようになりました。

 いやあ、本当に田村さんのドラマをまた見たくなりました。長い間、本当にありがとうございました。ご冥福をお祈りします。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)