以前は職能資格制度で年功的な人事を行ってきた多くの日本企業で最近、ジョブ型人事制度の導入が進められています。年功的な人事のもとでは一定の年数が経過するとジョブローテーションが行われ、ほとんどの人はある程度のポジションまで昇格でき、おのずと給与も上がっていきました。その背景には、右肩上がりの経済成長がありました。

 しかし経営環境は大きく変わり、同じことをやっていればおのずと成長できる時代ではとっくになくなっています。企業としては既存の事業を変革したり、新たな領域にチャレンジしたりしなければ成長できず、ジリ貧に陥ってしまいます。

 各ポストの職務内容を明確にして、それに合った人材を起用できるようにするジョブ型人事制度の導入は、このような状況への対応といえます。こうした制度を導入した企業の資料に、社員の専門性や能力の向上、自律的なキャリア形成、チャレンジの評価といった内容がうたわれているのはそのためでしょう。

 これは会社主導のキャリア形成に従い、普通にやっていればある程度までは誰でも出世できる仕組みからの大転換であり、成果志向で自ら公募で高位のポジションに手を挙げたり、未知の業務に取り組んで新たな知識や経験を身に付けたりしなければ、ポジションも給与もずっとそのままか、他の誰かに取って代わられてしまうでしょう。

失敗がキャリアの傷になるのは
経済が右肩上がりだった時代の昔話

 振り返ると、かつては下手にチャレンジして失敗するのが大きなリスクとなる時代もありました。一時期の金融機関がその典型で、エリート人材ほど企画部や人事部など失敗の少ない部署を歩かされたと言われます。「ワンストライクアウト」で失敗するとその人のキャリアに「×」が付けられ、出世に響いてしまうからです。

 しかし、そうしたキャリアでは調整能力は身に付くかもしれませんが、何か新しい事業をつくったり物事を変革したりするような能力は身に付きません。その結果がバブル崩壊以降の日本企業の低迷だといえます。このような経験を踏まえて、現在はそうした慣行は排除されていると思います。