「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
経済を地理から読み解く
地理には「自然地理」という分野があり、そこでは自然環境の地域性を学びます。
自然地理を学ぶと、人間の生活が見えてきます。なぜなら、自然環境に最適な形で、人間の文化が発達するためです。
例えば日本で考えても、北海道と沖縄では、衣食住のすべてが異なります。地域的特性を知れば、その暮らしをより深く理解できるようになるのです。
つまり自然地理を学ぶことは、地球が人類に与えた「土台」を学ぶことであり、ひいては経済活動の理解にもつながります。
北ヨーロッパにアイスランドという島国があります。人口は約36万人、国土面積は10.3万㎢と非常に小さい国です。アイスランドには多くの火山が存在するため、これを利用した地熱発電が行われています。これが総発電量のおよそ20%を占めます。
また、アイスランドの国土の北側は北緯66.6度が通過するほど高緯度に位置しており、非常に寒冷です。平均気温は10℃以下です。
そのため、氷河の侵食によって形成されたU字谷(氷食谷=氷河の侵食によって形成された谷)が多数存在します。土地の高低差を利用し、水の落下エネルギーを用いた水力発電が盛んです。
なんと水力発電量は総発電量の約70%を占めます(2019年)。
アイスランドは、地熱発電と水力発電という再生可能エネルギー(自然エネルギー)で電力の大部分をまかなっている国なのです。
火力発電や原子力発電よりも安価な電力を得ることが可能ですので、アイスランドはそれを武器にアルミニウム工業を発達させてきました。
アルミニウムは、中間製品アルミナを電気分解して生産しますので、生産過程において大量の電気を使用します。だからこそ、安価な電力が必要なのです。
これもアイスランドに与えられた「土台」ですね。また、人口が少ないこともあって、国民1人当たり電力消費量は5万6065kWh(2018年)と世界最大です。
まさしく、自然とは地球が人類に与えた「土台」なのです。「母なる大地」という言葉があるように、土地が我々の経済活動を支えてくれているのです。