「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
(本記事は2017年2月20日付け記事を再構成したものです)

イギリス料理が「マズい」と言われる本当の理由Photo: Adobe Stock

イギリス料理の「マズさ」には、理由がある

 イギリス料理と聞いて、みなさんはどのような料理をイメージするでしょうか?

「何か特別なものってあった?」「イギリス料理ってマズいって聞くけど……」。こうしたイメージを持っている方が多いかもしれません。

 ところで、イギリス人は牛肉をよく食べます。「No meat, no life.」とばかりに、とにかくよく食べます。しかも、あまり野菜をとりません。

 イギリスはかつての氷食地です。そのため土壌中に腐植層が少なく、痩せ地です。ジャガイモはとれますが、野菜があまり育ちません。特に冬場の野菜不足は深刻でした。イギリスがアイルランドを植民地支配し、農作物の供給地として位置づけた理由が見えてきます。当時、アイルランド人は実質イギリスの農奴でした。

 現在のイギリスは立憲君主の政治体制を採っていますが、イギリス史上唯一共和制だった時代があります。ピューリタン革命によってオリバー・クロムウェルが護国卿に就任した時代です。このときよりイギリスの支配階層となったのが、ジェントルマンと呼ばれる人たちでした。

 ジェントルマンはプライド高き支配層であり、服装やマナー、飲食など、生き方全般において、「俺たちはジェントルマンだから!」と独自の生き方を決めていきます。

 中でも飲食に関しては、「ジェントルマンは、暴飲暴食はせずに質素な食事を好む」と決めていました。

 料理の品数は少なく、肉を焼いた物をただ食べるだけ。稀にスープが食卓に並ぶ程度でした。400年近くも支配階層にいたジェントルマンが食事にほとんど興味を持たなかった。これはイギリス料理の発展にとって致命的な足かせになりました。

 また、フランス革命後にフランスと対立するようになると、フランス文化の排除も行われます。

産業革命でさらに事態は悪化

 18世紀後半、イギリスで産業革命が起こりました。産業革命は、工場制機械工業によって大量生産が可能となった時代でした。これによって都市部においては仕事が増えました。

 都市部では、就業機会の増加によって可容人口が大きくなりました。そして農村部から多くの人たちが都市部へと流入します。

 これは都市部、特にロンドンの過密を招きました。都市の過密はさまざまな都市問題を引き起こします。後に、エベネザー・ハワードによって提唱された「田園都市構想」はこれを背景としています。

 農村部に人が多かったときは自給自足が可能だったわけですが、都市部で人口が増えるとお店で食材を買いそろえる必要が出てきます。料理文化の断絶が起こりました。お金のない低所得者層は、ろくな食事をとることができず、日頃の過酷な仕事によって栄養状態は悪化していきました。