白根社長の文章は、私が顧客だったら書いてほしくないことにも踏み込んでいます。要するに“顧客のお店でのふるまい”というプライバシーをカメラの映像で分析して、公式ホームページで公開している。このようなケースは初めて見ました。

 白根社長の文章を具体的に批判する前に、飲食店においてお店、顧客双方の権利を整理しておきたいと思います。

飲食店と顧客
それぞれに権利がある

 お店の側は、「顧客を選ぶ権利」があります。顧客の行為がお店や他の顧客にとってマイナスな場合、たとえ該当の顧客が飲食の途中であっても退店をお願いするのは場合によっては間違いではありません。

 一方で、顧客の側には「食事を楽しむ権利」があります。もちろんゆっくり食べる権利もありますし、お友達と食事をする以上会話を楽しむ権利もあります。コロナ禍ですから、お店も周囲も「会話をする際にはマスクをすべきだ」と考えるでしょう。しかし、周囲に配慮しているという前提であれば、顧客は食事を食べ、楽しい気持ちになって、会計してお店を出るまでの体験に対価を支払っています。

 さて、ここでお店の経営戦略が入ってきます。ラーメン店のような低単価の商品を提供する業態では、回転率を重視しないと利益が上がらないという事情があります。ラーメン店の椅子は硬くて高いことが多いですが、これは顧客が必要以上に長く席にとどまらないようにという戦略です。同じように、食べ終わったのになかなか帰らないお客様には頻繁に水を取り替えたり、丼を下げたりしてそれとなく退席を促します。

 これは、サッカーで例えると相手のユニフォームを引っ張るようなもので、一般的には許される行為です。そしてそれでもお帰りにならないお客様には「お待ちのお客様がいらっしゃるのでお席の方をあけていただけないでしょうか」と従業員が言うこと自体も、お店の権利の範囲内です。

 人気のラーメン店の中には店舗設計の際に、お待ちになるお客様が食べているお客様の後ろにびっしりと座って、自然とプレッシャーをかけるような間取りをあえてつくる店もあります。もちろん、回転率を高めるために工夫するのもお店の権利ですし、顧客の側はゆっくり食べられないお店には行かない権利もあります。

飲食店の「スタンス」が表れるのは
お客同士のトラブル発生時

 一方で、こういったプレッシャーが度を越して顧客同士のトラブルに発展した場合、お店は難しい選択に迫られます。基本的にお店は仲裁に入るべきで、その際に結果としてどちらかを擁護する立場をとらざるをえないケースもあります。

 もう閉店してしまったお店ですが、以前、神保町に「いもや」という庶民的な天ぷら屋さんがありました(のれん分けのお店は今でも営業中)。人気のお店で来店順に列に並んで席が空いたら座る方式なのですが、あるとき私が食事をしていたら男女のカップルのお客が次の番になって、とりあえず女性だけが先に空いたカウンターの席に案内されたことがあります。

 その女性の隣席にいたお客がもうすぐ食べ終わるところだったので、お店の人がそうされたのだと思います。しかし女性と一緒に来店した男性が、そのお客のすぐ横に立ってプレッシャーをかけ始めたのです。

 私も見ていて「あれをやられたら、ゆっくりと食事を楽しめないな」と感じていたところ、店主がすぐに「申し訳ないですが、待合席に戻っていただけないでしょうか?」と男性に戻るよう促しました。「いもや」の場合は、最後まで召し上がるまではお客様の側に立つというスタンスを守っていたわけです。