右が左で左が右?
ビジュアルイリュージョンの不思議

 二つ目は、感覚としての痛み。“ビジュアルイリュージョン”を利用したアプローチを試す。

「僕はデンマークで、痛みや感覚に対する新しいアプローチを研究していました。痛みや感覚ってすごく曖昧で、見たものやにおいといった五感への働きかけや、騒音などの外部環境などによってかなり変化するものなんです。

 そこでやったのは、リバーサルミラーといって右が左に、左が右に見るミラーを使った実験です。リバーサルミラーを見てもらいながら右の頬に針を刺すと、被験者は自分が見ている側と反対側に針が刺さるので、一瞬どっちが刺されているのか迷い、混乱します。すると痛みが減ったんです。これは使えるかもしれないと思いました。錯視みたいなビジュアルイリュージョンを盛り込んだ作品には、痛みを減らせる可能性があるのかなと。

 今回は、作品を見た人がどんな感覚になるのかも、展示期間中に調べてみることにしています」

 そして三つ目は、これから起こる痛み。

「アートのコンテクストを読んだ医療や健康に無関心な人が、自分の生活習慣を見直し健康行動を始めるかもしれません。結果的に、これから起こる痛みを予防することになるかもしれないと考えています」

問題提起だけでは終わらない
解決まで取り組む現代美術

アート×痛み「アートが痛みを減らすっ展!?」
開催期間:2021年5月25日~6月23日/会場:蔦屋家電+(二子玉川ライズ S.C. テラスマーケット)

 蔦屋家電+を何気なく訪れ、『アートが痛みを減らすっ展!?』という看板に気づいた人はたぶん、(アートで痛みを減らすなんてできるのかな)と疑いつつ、興味をそそられて展示を見るだろう。

 ただ、作品を鑑賞しただけでは、なぜ痛みが減るのかも、実際に痛みにどんな効果があるのかも分からない。自分自身健康で、身体的な痛みを抱えているわけではないので、判断のしようがないのだ。なんとかして、疑問に対する答えが欲しい鑑賞者は、作品の脇にあるコンテクストに答えを求め、読み始める。

 長縄氏の作品は現代美術であり、“薬”ではない。謎と向き合う行為そのものや、共感してもらい、行動変容を促すことに意味がある。そういう意味では、近年話題のナッジ理論(行動経済学)にもつながる。