コロナ禍で急増する、日々のストレスや不安、うつ。そんなメンタルの不調をやわらげる方法を発信し続けているのが精神科医の藤野智哉氏だ。『コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める』『あきらめると、うまくいく』(以上、ワニブックス)の著者であり、「世界一受けたい授業」などのメディア出演でも注目を集めている。
藤野氏が、心の健康を保つために伝えたいこと。それは「脱力する」ことだ。もっと肩の力を抜き、柔軟に考える習慣をもってほしいと語る。そんな彼が、凝り固まった考え方を解きほぐす”名言の宝庫”と絶賛する本がある。40歳を目前にして会社を辞め、一生懸命生きることをやめた韓国人著者のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』だ。韓国で28万部超、日本でも15万部のベストセラーとなった一冊である。今回は、本書の名言について藤野氏に聞いた。

努力は必ず報われるわけじゃない

精神科医が教える「ストレスを感じやすい人の考え方」を解きほぐす4つの名言藤野智哉(ふじの・ともや)
1991年7月8日生まれ。秋田大学医学部卒業。現在は愛知医科大学病院・精神神経科に勤務。日本精神神経学会所属。幼少期に川崎病に罹患。心臓に冠動脈瘤という障害が残り現在も治療を続けている。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信している。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は大学病院勤務の傍ら医療刑務所の医師や看護学校の非常勤講師などとしても務める。著書に『あきらめると、うまくいく』『コロナうつはぷかぷか思考でゆるゆる鎮める』(以上、ワニブックス)がある。

――精神科医である藤野先生が、この本をオススメしているのはなぜでしょう? どこに魅力を感じているのでしょうか。

 何よりまず、そのタイトルですね。『あやうく一生懸命生きるところだった』というタイトルは“秀逸”の一言に尽きます。私は、つねづね「みんなを脱力させたい」と思っています。普段、患者さんを見ていても、仕事の競争や人間関係で頑張りすぎて心が疲れている人が多いからです。もう少しゆるく、肩の力を抜いて生きてほしいと思っています。その考えを一言で表してくれていたのがこの本だったのです。書店で見たとき、思わず手に取ってしまいました。

――実はこの本、「日本タイトルだけ大賞」で大賞も受賞しているんです。でも、決してタイトルだけではなく、中身にも高い評価が集まっています。

 そうですね。私もこの本は、凝り固まった考えを解きほぐす“名言の宝庫”だと思います。ふだん患者さんにも、肩の力を抜くための考え方をお伝えしていますが、まるまる本書を渡したいくらいです。

――どんな言葉が印象に残っていますか?

 挙げたらキリがありませんが……パッと思いつくのは「努力は必ず報われるわけじゃない」という一文ですね。これって、私たちがこれまで教えてもらったこととは真逆の発想ですよね。子どもの頃から「努力=善」という考えで生きてきましたから。

 でも、この本にも書いてある通り、必死に努力しても見返りがないこともあれば、まったく努力しなくても想像以上の見返りがあることもあります。たしかに人生ってそんなもんだよなと腑に落ちて、すごく共感できました。

「結果が出ないのは努力しない自分のせいだ」「努力したのになんで……」と肩ひじ張って気を病むより、これくらいに考えていたほうが、失敗したときに落ち込みすぎることも減るし、もし成功してもラッキーくらいに考えられると思うんです。

誰が決めた?
人生に存在する不思議な「マニュアル」

――ほかにも「人を気にするな」「他人と比べるな」という話を、本書では独特の表現で教えてくれていますよね。

 そうですね、この本には「人生マニュアルを捨てて自分らしく」という言葉が出てきますが、その話も「たしかに、そうだな」と頷いてしまいました。

――「人生マニュアルって市役所でもらえるの?」というところですね。

 そうです、そうです(笑)。結婚とか、収入とか、資産とか、私たちは気づかないうちに「この年齢ならこれくらいは実現して然るべき」みたいことを意識していて、それができていないと落ち込むことってよくありますよね。

 でも、この本に書いてある通り、人生にマニュアルなんてないんです。人それぞれのペースでいいのに、まわりにあわせて全力疾走しようとするから疲れちゃう。当たり前のようですけど、この考えが頭の中にあるだけで、劣等感とかそういうものがスーッと消えていくような感じがします。

嫉妬なんて、どんぐりの背くらべ

 あと、人と比べるという意味では「嫉妬なんて、どんぐりの背比べ」という言葉も好きです。「私たちはビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグには嫉妬を抱かない。嫉妬をするのは自分と同等か格下の人間だけ」みたいなことが書いてあるのですが、これも本当にそうだなと。

 結局、私たちが嫉妬する人って、自分とほとんどレベルが変わらない人たちで、ほんの少しの差を気にかけて、気を病んでいるんだと思い知らされました。職場でも、友人関係でも、結局そんなに変わらないレベルで比べて、悩んでいるわけなんですよね。「あの同僚、株で50万円稼いだらしい……悔しい!」なんて思っても、ビル・ゲイツからしたら、あなたもその同僚も変わりませんよねっていう。

 こうやって「自分が嫉妬している相手って自分と同等なんだな。どんぐりの背比べなんだな」と考えることができれば、ストレスを感じることも減りますし、心も軽くなると思います。

「何もしない」とは、究極の贅沢

 あっ、あともう一つおもしろい言葉があります。世の中には「時は金なり」って言葉がありますよね? 時間は貴重だから、有効に使おうという意味の言葉で。

 でもこの著者は、逆です。「何もしないとは、究極の贅沢」と言うんです。「時間は貴重。それなのに何もしないなんて最高の贅沢じゃないか」って(笑)。これもハッとしましたね。コロナ禍の在宅続きでモヤモヤすることもありますが、そういう考え方もあるのかと。自分の考え方が凝り固まっていたことにここでも気づかされました。

――たしかに、この本はいろいろと気づきが多く、自分を縛っていた考えが解きほぐされていくような、そんな本ですよね。藤野先生は、この本をどんな方に読んでいただきたいですか?

 すべての方ですね。本当に。コロナ禍という状況もありますが、ストレス社会が加速していて、どんどん私たちの視野は狭くなっています。1つの視点でしか見られないと、ストレスを抱えてしまわざるをえない世の中だと思うのです。

 そんなときに、「そういう選択肢もあるよね」「そういう考え方をしたら、もうちょっとラクになるかも」と思ってもらえるだけで、目の前がぱっと明るくなって、ラクに生きられると思います。

 今回は紹介しきれませんでしたが、「やる気がなくても働ける」とか「年相応に縛られるな」とか、この本の名言を挙げだしたらキリがありません。ぜひ、ストレスフリーに、心をラクに生きるためにも、今回の名言も参考にしていただきながら、脱力して生きていただければと思います。

――藤野先生、ありがとうございました。