枝元 だからこそ、と申し上げたいのです。⾷料に関わる原材料の調達から⽣産、流通、加⼯、消費に⾄る全ての関係者が問題を共有し、⼀⾒相⽭盾と⾒える課題を克服できる技術⾰新に挑み、社会に実装していく。実際、すでに今ある⾰新的な技術を横展開するだけでも、⼤きな改善と貢献をもたらすことができます。それが⽇本だけでなく、世界の⾷料安全保障の維持にもつながります。
世界の温室効果ガスの排出量のうち農林⽔産業関係は水田からのメタンガスや⽜のゲップによるメタンガスの排出などで4分の1を占める⼀⽅で、農林水産業はCO2の吸収源を育む産業であり、温室効果ガスの排出と吸収の両⾯で重要な責務を担っているといえます。
――21年は、9⽉の国連⾷料システムサミット(⾸脳級)をはじめとして、「生物多様性条約COP15」(10⽉)と「気候変動枠組条約COP26」(11⽉)、「東京栄養サミット」(12⽉)など⾷料や農林⽔産分野に関連の深い国際会議が目⽩押しです。新戦略の策定は、こうした世界的な動きにも促されてのものですか。
枝元 例えば「国連⾷料システムサミット=FSS(Food Systems Summit)」は、国連のSDGsを達成するためにアントニオ・グテーレス・国連事務総⻑の考えで開催されるサミットで、国連が「⾷料システム」という概念を打ち出したのは初めてのことです。地球規模での環境への負荷の低減や各国が抱える⾷料システムの課題克服などへの危機感を共有し、より持続的にするための⽅策を探るのは、まさに国際的に協調しながら取り組まなければならない課題になっているからだと思います。
「⾷料システム」という視点で未来からバックキャストする
――では「みどりの⾷料システム戦略」では、どのような⽅向性で、どのような取り組みがなされるのでしょうか。
枝元 ⽇本ではすでにドローンや無⼈トラクターの活⽤に象徴されるような省⼈化と⽣産⼒の向上を両⽴させるスマート農業の実証化などが進んでいますが、そうした個別具体的な事例のご紹介は別の機会に譲るとして、ここでは戦略がどのような⽅向性を持った取り組みになるのかをご紹介します。
技術開発目標としては、40年までに⾰新的な技術や⽣産体系を順次開発していき、50年までにそれらの開発された技術の社会実装を進めると共に、「政策⼿法のグリーン化」、つまり農林⽔産⽀援施策の脱炭素化などを進める計画でいます(図2参照)。
政策的には、①調達、②⽣産、③加⼯・流通、④消費の4領域を設定して、それぞれに⽅向性を⽰しています。つまり調達では「資材・エネルギー調達における脱輸⼊・脱炭素化・環境負荷軽減の推進」、⽣産では「イノベーション等による持続的⽣産体制の構築」、加⼯・流通では「ムリ・ムダのない持続可能な加⼯・流通システムの確⽴」、そして消費では「環境にやさしい持続可能な消費の拡⼤や⾷育の推進」といったもので、それぞれがさらに細かな⽅針と具体策を伴う形になっています。この4領域で循環的な流れを創造していきます(図3参照)。