「みどりの⾷料システム戦略」第1回:「若者に⽀持され、選ばれる農林⽔産業に変わらなければ持続性はない」枝元真徹・農林⽔産事務次官は訴える

農林水産省

枝元 国連における⾷料システムの議論は、地球環境全体への負荷低減のための具体的な解決策を考えると同時に、農林⽔産業分野における新たな国際的な方向性の設定という⼀⾯も持ちます。つまり持続可能な食料システムの新たな国際ルールの策定をしたいという各国の思惑も見られます。

 ここで⼀つ忘れてならないのは、欧⽶を中⼼とした乾燥地域でのルールとアジアモンスーン地域でのルールにはおのずと違いがあるということです。詳細は省きますが、⼀⼝にカーボンニュートラルの実現とは⾔っても、乾燥地域とアジアモンスーン地域ではアプローチ⼿法も実現性も異なります。ですから現在、9⽉の国連⾷料システムサミットを前に、ASEAN各国に対して⽇本の新戦略を説明し、共有してもらえる作業を始めています。まずは基本的な考え⽅については共感をいただいていると報告を受けています。

――いわゆる「Z世代」は、社会課題への関⼼や環境意識も強いので新戦略を好意的に受け⽌めるのではないでしょうか。彼らにとってはSDGsなど当たり前のことですから。

枝元 私もそう実感しています。従来は農産物も、究極の選択肢は価格でした。しかし今は、ネット販売の広がりもあって環境や⼈権への配慮など価格以外の価値という物差しで買い求めるのが普通のスタイルになってきました。だからこそ農林⽔産業が若い⼈たちから⽀持され、選ばれる職業に変わらなければ本当の意味で持続性を確保できたとはいえません。

 新戦略は、「地球にやさしい⾷料システムに変え、そのためのアプローチを積み重ねよう」というものです。10年後の未来に消費者になる今の⼦どもたちの感性を学んでいないと置いていかれてしまう。そういう危機感が常にありますね。

「みどりの食料システム戦略」が2050年までに目指す姿と取り組みの方向

温室効果ガス

(50年までに)農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現

化学農薬

(40年までに)ネオニコチノイド系農薬を含む殺虫剤を使用しなくても済むような新規農薬などを開発
(50年までに)化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減

化学肥料

輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量の30%低減

有機農業

(40年までに)主要品目に農業者の多くが取り組めるように次世代有機農業に関する技術を確立
(50年までに)耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万㏊)に拡大

園芸施設

(50年までに)化石燃料を使用しない施設への完全移行

農林業機械・漁船

(40年までに)電化・水素化などに関する技術の確立

再生可能エネルギー

(50年までに)再生可能エネルギーの導入拡大に歩調を合わせた農山漁村における導入

食品ロス

(30年までに)事業系食品ロスを00年度比半減
(50年までに)AIによる需要予測などにより事業系食品ロスを最小化

食品産業

(30年までに)食品製造業の自動化などにより労働生産性を3割以上向上(18年基準)
(50年までに)AI活用による完全無人食品製造ラインの実現などによりさらなる労働生産性の向上
(30年までに)流通の合理化で飲食料品卸売業での売上高に占める経費の割合を10%に縮減
(50年までに)AI、ロボティクスなどによりあらゆる流通の現場で省人化・自動化を進めさらなる縮減

持続可能な輸入調達

(30年までに)食品企業での持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現

森林・林業

「エリートツリー」などの苗木の活用について30年までに林業用苗木の3割、50年までに9割以上
(40年までに)高層木造の技術の確立と木材による炭素貯蔵の最大化

漁業・養殖業

(30年までに)漁獲量を10年と同程度(444万t)まで回復させる(18年=331万t)
(50年までに)ニホンウナギ、クロマグロなどの養殖で人工種苗比率100%を実現し、養魚飼料の全量を配合飼料給餌に転換

*「エリートツリー」=成長や材質などの形質が良い精英樹同士の人工交配などにより得られた次世代の個体の中から選抜される成長などがより優れた精英樹
出所:農林水産省資料を基に作成
●問い合わせ先
農林水産省
https://www.maff.go.jp/
問い合わせ先

 

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