「入社1年目で辞める若者は、成長できるのか?」への超納得の回答

終身雇用が崩壊しつつある現代では、キャリアアップのための転職も当たり前になってきました。とはいえ、転職して「うまくいく人」と「失敗する人」には明確な違いがあると北野さんは語ります。とくに、入社1年目での転職活動は要注意。「仕事が合わない」と早々に退職してしまうと、将来的に取り返しがつかなくなる可能性も……。
今回は、北野さんのベストセラーがマンガ化された『マンガ このまま今の会社にいていいのか? と一度でも思ったら読む 転職の思考法』発売を記念し、ベストな転職タイミングの見分け方について、北野さんに聞いてみました。(取材・構成/川代紗生、マンガ/松枝尚嗣)

「成長実感がない」=「ほんとうに成長していない」とはかぎらない

──最近では「入社3ヵ月で退職」など、新卒のまだ若いビジネスパーソンが早々に会社を退職……という話もよく聞くようになりました。

北野唯我(以下、北野):私自身、『マンガ 転職の思考法』という本を書いていますし、「職業人生の設計」の専門家なので、基本的には「よりよい環境が見つかったのであればさっさと転職したほうがいい」と思っています。ただ、やっぱりなかには焦って転職してしまっているな、という印象の人もいますよね。

 たとえば、よくある転職理由として「全力でがんばっているのに成長実感がない」というものがあります。

──ああ、よく聞きますね。

北野:「もっと成長できる場所に行きたい」という理由で転職する。これって一見、何も問題がないように見えるじゃないですか。でも、じつは落とし穴があって。「成長実感がない」イコール「ほんとうに成長していない」とはかぎらないんですよ。

──客観的に見れば成長しているのに、それを実感できていないということでしょうか?

北野:はい、とくに新卒など、若手のビジネスパーソンには、ほんとうは成長できているのに自己認識できていないケースは多いにありえます。

 そもそも成長って、振り返ってみないと実感できないんですよね。学生時代までは、試験や成績表などで点数がつけられ、合格・不合格のボーダーラインがあった。でもビジネスの世界では、自分の能力を測る指針は存在しません。だから、上司や先輩からはっきりと見えている成長も、当事者である自分自身はなかなか認識できなかったりします。なので、「成長実感がない」という理由で辞めようとしている人は、一度立ち止まったほうがいいかもしれませんね。いつも一緒に仕事している先輩などに客観的な意見を求めてみるのがいいんじゃないでしょうか。

「MUST」と「CAN」の積み上げが転職の成功を左右する

──ほかに、「こういう転職理由の場合は要注意」というケースはありますか?

北野:「やりたいことが見つからない」という理由ですね。他の会社に行けばやりたいことが見つかるかも! と焦って転職してしまう人も多いですが、そもそも「やりたいこと」って、何かを極めないと見えてこないんです。

 自己分析のフレームワーク「WILL」「CAN」「MUST」で考えてみるとわかりやすいのですが、最初から明確な「WILL=やりたいこと」を持って社会人になる人はほんのひと握り。まずは「MUST=会社や周りから求められること」をひとつひとつこなしていき、「CAN=できること」が増えてからようやく「WILL」が生まれる、という構造がほとんどです。

 もちろんパワハラで苦しいなど、入社した会社に大きな問題がある場合は別ですが、そうでないのなら、まずは「MUST」と「CAN」を増やすことに集中したほうがいいのではないでしょうか。

──『マンガ 転職の思考法』の主人公・奈美は29歳で転職に成功しましたが、これも「MUST」と「CAN」が積み上がっていたからこそなのでしょうか。

北野:そうですね。なので、本格的な転職活動をはじめる前に、まずは仕事の棚卸しをしてみるのがいいんじゃないかなと。奈美も、「いままでたいしたことはやってきていない」と自信がなかったけれど、思考法に照らし合わせて書き出してみると思いのほか実績が見つかった。だからこそ、思い切って外の世界へ出る勇気を持てたんです。

──なるほど。逆に考えると、実績を洗い出してみて「MUST」も「CAN」もぜんぜん見つからなかったとしたら、まだ転職するべきタイミングではないと言えるかもしれませんね。

仕事とは「実績」と「実績」の交換によって成立している

──「MUST」と「CAN」の積み上げを十分にしなかった場合のリスクについてお聞きしたいのですが、たとえばやりたいことばかりを追いかけて職を転々とし、結果、これといった実績もないまま40代になってしまった……。リーダー経験もなく、数値化できる「CAN」もあまり見つからない。という場合でも、一念発起すれば転職&年収アップは可能なのでしょうか?

北野:そういう場合は、やっぱり転職するよりも先にビジネスで実績を残すことを第一に考えたほうがいいでしょうね。40代でリーダー経験がないということは、それまで「ビジネスで実績を残してやるぞ」というスタンスや能力が足りなかった、ということ。転職エージェントや面接先の企業からも、「言われたことだけやってきた人なんだな」と思われる可能性が高いです。優良企業はそういう人材をほしがらないですよね。もし求める企業があったとすれば、ほんとうに人手不足である可能性が高い。「どんな人でもいいからほしい」「言われたことだけやっていればいい」という理由で採用された企業に入社して年収アップするか? と考えると……かなり、難しそうですよね。

 だからまずは自分の工夫で会社に利益をもたらし、実績をつくる。実績が何もない状態で転職して年収アップするほど社会は甘くありませんよね。悲しいですが真実です。

──やっぱり衝動的な転職によって取り返しがつかなくなる可能性もありますよね……。そういう意味でも、「転職の思考法」を使ってじっくり自分と向き合ってから決断する必要がありますね。

北野:そもそも、ビジネスとは価値の交換です。私たち働き手と企業は、「実績」と「実績」の交換をしているんです。優秀な人であれば、過去の仕事で積み上げてきた実績やスキルを企業に提供することができる。その対価として、優良企業で活躍する機会や、その企業が積み上げてきた技術を得ることができる。

 相手に提供できる実績がない状態なのに、あなたの実績だけは私にくださいと言っても、それは成立しないですよね。

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「入社1年目で辞める若者は、成長できるのか?」への超納得の回答北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役などを経て、現在、ワンキャリア取締役。テレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。著書に『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む転職の思考法』『OPENNESS 職場の「空気」が結果を決める』(以上、ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などがある。最新刊は『マンガ このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』
「入社1年目で辞める若者は、成長できるのか?」への超納得の回答