成績曲線の実態を把握し仮説検証を繰り返す
我々が企業と協力して営業分野の問題と取り組んできた経験は、2人合わせて40年を超す。我々が経営幹部と最初に会った時に必ず尋ねるのは、最も苦心している意思決定事項は何かという問いである。
すると、きまってトップないしは上位に挙がってくるのが、営業担当者への報酬の与え方である。さらに報酬関連の意思決定の基礎となる情報は十分かと尋ねると、必ずと言ってよいほど「ノー」という答えが返ってくる。
そろそろ、そうした状況を改めてはいかがだろうか。本稿では、成績曲線上の異なる位置にいる営業担当者は、それぞれ異なるインセンティブに反応することを明らかにする調査を紹介してきた。マネジャーとして、それが自社にとって何を意味するかを考え、さらには、今後の研究の進展を見守っていただきたい。
とはいえ、学術研究だけに頼るべき理由はない。企業はみずから現場で実験を重ね、自社の営業担当者に最も有効な方法を見つけていってほしい。
どのような企業にとっても、自社の成績曲線をはっきりと理解することが最初の1歩となる。そうするために高度な計量経済学の手法を使うのが理想的だが、次の要領でおおまかに推定することもできる。
単純に営業担当者ごとに販売ノルマ達成率を計算し、そのデータを用いてヒストグラム(度数分布図)を作成すれば、自社の成績曲線が正規分布なのか(中間層が大半を占め、落ちこぼれと花形がほぼ同数いる状態)、落ちこぼれが多いのか、花形が多いのかを大まかに把握できる。
成績曲線の形を見れば、どのインセンティブが最も効果的であるかを推定できる(たとえば、落ちこぼれの数が不釣り合いに多い場合、最初にボーナスによるペースづくりと自然な組織内の圧力を重視すべきである)。
ただし、販売をめぐる既存の企業文化は、一朝一夕に変えられないことを忘れてはならない。報酬制度を白紙の状態から組み立てるよりも、制度内の1要素について、たとえば、「ペース・メーカーとしてボーナスの回数を増やせば、落ちこぼれの成績が向上するだろう」というような仮説を立てるとよい。
そして、処遇を変えたグループと対照グループを用いる実験を設計し、営業部門のごく一部で試験的に変更してみる。毎回1つずつ仮説を検証し、限定的に試験を行うべきである(注)。
営業担当者のタイプによって異なるニーズ、すなわち、思い込みではなく実証に基づいたニーズに配慮した報酬制度があれば、間違いなく営業部門の投資収益率が飛躍的に向上するはずである。
【注】
Eric T. Anderson and Duncan Simester, "A Step-by-Step Guide to Smart Business Experiments," HBR, March 2011.(未訳)