辞職しているのは民主派の区議会議員

 今期の区議会議員は2019年、あのデモの年の11月に行われた選挙で誕生した。デモの勢いを受けて市民の投票への意欲は高く、香港史上最高の投票率71%を記録。民主派が全議席の86%に当たる388議席を奪取して、これまで親中派優位だった区議会の歴史を塗り替えた。

 しかし、市民の委任を受けたことでデモ中の政府や警察の不作為を議会で追及する民主派議員に対して、政府は「区議会は民生を諮る場であり、政治の場ではない」と出席要請や協力を拒絶。加えてこれまで区議会が地域のために運用できた予算を半分に削り、残りの運用は政府委任の委員で構成される「分区委員会」の審査を受けることを義務付けた。そしてこの分区委員には先の区議会選挙で落選した親中派元議員らを任命したのである。

 デモに対する政府の対応に不満を持つ市民によって支持された区議会議員に対する、政府の姿勢は明らかだった。そして、この5月、昨年6月に制定された香港国家安全維持法(以下、国家安全法)に基づいて公務員や立法会議員を対象に導入された「香港基本法、国家安全法、国家への忠誠を尽くす」という宣誓(以下、「忠誠宣誓」)の適用範囲を、区議会議員にも拡大することを決定した。

 この決定直後に辞職する区議会議員も出た。だが、決定的になったのは7月初めに一部伝統メディアが「消息筋によると」と前置きして、「まず忠誠宣誓に値しないと判断された議員には宣誓の通知を行わず、そのまま免職」、「忠誠宣誓を行ったとしてもそれが信用できないと判断された議員は免職」、さらには「免職となった場合、議員就任以降の報酬と支援金を政府に全額返済」などという情報を流し始めたことだった。