国と東京都の醜い「赤字」の押し付け合い
武藤事務総長が小池知事に放ったジャブ

 五輪組織委員会の収入は、国際オリンピック委員会(IOC)負担金とスポンサー収入、そしてチケット売り上げの3本柱からなる。そのチケット売り上げ約900億円が、ほとんどの会場で無観客になったことにより、限りなくゼロに近い金額となった。

 だからといって、IOCやスポンサーが賄ってくれるはずもない。組織委の最終収支は、誰がどう考えても大赤字になることが避けられない。

 では、この900億円を誰が負担するのか。そもそも組織委員会は、五輪パラリンピックのために期間限定で設置された組織だ。大会が終わればさっさと解散する。早ければ、秋にも残務処理部門を残して撤収してしまうだろう。

 組織委自らが赤字を補填するすべは全くない。残された頼みの綱は、国か東京都しかないのだ。

 組織委の武藤敏郎事務総長は、国と財政負担について話し合うのは大会後だとしているが、国と東京都の暗闘はすでに始まっている。

 その武藤氏は7月11日、NHK「日曜討論」に出演し「小池(百合子)知事は、東京都では完全無観客にすると決定された」と述べ、「そうなると、近郊3県(神奈川、千葉、埼玉)も同じ判断にならざるを得ないというのが3知事の判断」と付け加えて、小池知事の意向が1都3県無観客開催の流れを作ったと主張した。

 小池知事が「過労」による入院から復帰直後の7月2日の記者会見で「感染状況をよく注視しながら、どのような形がいいのか、無観客も軸として考えていく必要がある」と言及したことを、武藤氏は念頭に置いたのだろう。無観客による赤字負担をめぐって、さっそくジャブを繰り出していたのだ。

 武藤氏は言わずと知れた元財務事務次官で、その中でもとりわけ大物で鳴らした人物だ。実質的に政府の利益を代表している。

 チケット収入がなくなったのは無観客にしたためであり、それを強く主張した側に損失補填の責任があると遠回しに言っているのだ。裏返せば、「当然、東京都が穴埋めをするんですよね」と小池知事を牽制しているのである。