自主的にPCR検査を受けるならば、結果判明の2日前から休んで――。新型コロナウイルスの感染者が続出する伊勢丹新宿店で、三越伊勢丹ホールディングスが取引先の外部社員に示した「感染防止ルール」が反発を招いている。現場の従業員からは「事実上のPCR検査“阻止令”だ」との不安の声があがっている。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
伊勢丹新宿店でもコロナ感染者続出
新たな「感染防止ルール」に外部社員反発
「あの伊勢丹新宿がこんな指示を出すとはね。意地でも営業を続けたいんでしょう」
三越伊勢丹ホールディングス(HD)の旗艦店である伊勢丹新宿店が8月上旬、取引先の外部社員に示した「感染防止ルール」の内容を聞いたある小売業関係者はこう苦笑した。
新型コロナウイルスの全国的な感染拡大が止まらない。デルタ株の流行もあり、全国の新規感染者数が1万人を超える日が続く。
百貨店で国内トップの売上高を誇る伊勢丹新宿店でも、感染者が続出中だ。
伊勢丹新宿店では約1万1500人が働いている。このうち三越伊勢丹HDの自社雇用従業員は約2000人で、残る約9500人は取引先の外部社員だ。
外部社員の人数が多いこともあり、伊勢丹新宿店の従業員の感染者も、外部社員が中心だ。従業員向けのホームページによれば、7月29日から8月4日までの7日間の感染者数は70人。このうち自社雇用の従業員は1人で、外部社員の感染者数が69人とほとんどを占めている。
外部社員は接客業務に従事するケースが多いため、もともと感染リスクが高い。これに加え、外部社員のコロナのワクチン接種が進んでいないという要因もある。
三越伊勢丹HDは社員向けのワクチンの職域接種を進めている。しかし、取引先の外部社員には行き渡っていない。
伊勢丹新宿店のあるテナント関係者は、「ワクチンを打ったのは10人弱のスタッフのうちたった1人。その1人も1回目だけ。テナントによっては、利用客も従業員も共に若年層で、双方ともワクチンを打っていない状態もざら」と危機感をあらわにする。
ワクチンが行き届かない状況下で、伊勢丹新宿店が率先して取り組むべきことは、うがい手洗いや三密回避といった予防対策の“基本”に加えて、感染状況を速やかに把握するためのPCR検査の徹底だろう。
それにもかかわらず、伊勢丹新宿店ではPCR検査が“受けにくい状況”になっているという。8月上旬に取引先の外部社員に示された「感染防止ルール」がその“元凶”だ。
このルールを聞いたある伊勢丹新宿店の従業員は、「取引先従業員に対しての事実上のPCR検査“阻止令”だ」と憤りを露わにする。
ダイヤモンド編集部は三越伊勢丹HDが取引先の従業員に示した内部資料を入手した。そこには「感染防止に向けた11のルール」と題し、まるでPCR検査を受けさせたくないかのような高いハードルが記されていた。