コロナ禍ではマスクやワクチンなどの供給を外国に頼ることになり、効率や低コストといった経済合理性を優先した経済システムの脆弱(ぜいじゃく)性が浮き彫りになった。米中が経済覇権をめぐってしのぎをけずる「新冷戦」が本格化する状況もあって自由貿易やグローバル化にひたすら突き進むことは難しくなっている。『ポストコロナの新世界』#2は、成長戦略や通商戦略作りにかかわってきた甘利明・元経済再生相に、「経済安全保障」をキーワードとしてコロナ後の日本の課題を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
世界中の国がコロナ禍で
国家の脆弱性を認識した
――コロナ禍で、日本社会はさまざまな課題が浮き彫りになりました。
非常時の際に、平時の体制から有事の体制に切り替える仕組みができていないことを痛感しました。
新型コロナウイルスのワクチンの開発でも日本は米国に次ぐ創薬大国なのに、緊急事態モードにして開発を急ぐということができなかった。例えば米国では、マスク不足の際に国家安全保障法の規定をもとにGMなどの企業にマスク生産を命じて供給を確保しました。
医療の面だけをみても、日本はマスクのほかにも医療関連の備品や手袋、ガウンなど、基本的に必要なものが自国で生産できていないことがわかりました。
経済合理性が優先されて外国の生産に頼っていたわけですが、依存先も日本にとって政治リスクの高い国が多い。供給を止められて日本が首根っこを絞められるのは意外と簡単なところでやられるとわかって、がくぜんとしました。
日本だけでなく、コロナという有事を通じて世界中の国がワクチンの供給ができず医療体制が崩壊したり、サプライチェーンが断絶したりするなどの国家としての自国の脆弱性を認識したわけです。