日本企業はコロナ禍を契機に変革を迫られている。人こそが最重要な経営資源であり、安定した人的ネットワークが日本企業の強みであるという「人本主義」は今後も通用するのか。特集『ポストコロナの新世界』#3は、人本主義の提唱者である伊丹敬之・国際大学学長に、コロナ後の日本企業の取るべき針路を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
人的ネットワークの安定を
確保した上で安住を排除
――人を企業経営の中心に置く「人本主義」を1980年代後半から提唱しています。コロナショックによって考え方に変化はありますか。
企業で働く人や協力企業、サプライヤーなど、企業に関わる構成メンバーの人的ネットワークを安定的に作ることで企業はうまくいく。人こそが経済活動の最も重要な資源であるという考えは変わっていません。
――では、人本主義に基づいてきた日本企業は変わらなくていいのでしょうか。
産業構造の変化に合わせて、変えなければいけない部分はあります。人的ネットワークを安定的に作ると、そこに安住してぶら下がる人が必ず出てきます。日本企業は、発展していけるだけの人的ネットワークの安定は確保した上で、安住をどう回避するかという難しい問題に直面しています。
そのために、私は、年功序列的な処遇はやめて、企業内格差はつけた方がいいし、若い人材を教育する機会を作った方がいいと言っています。
――人的ネットワークの安定を壊さないようにしながら、安住を排除するのは難しいですね。
はい。安住する人をゼロにしようとすると、安定が脅かされます。だから、安住している人のうち3割くらいは残っても仕方がないと割り切るしかないと思います。一番良くないのは、安住させないために従業員の数を減らして、目いっぱい仕事をさせることです。そうすると、優秀な人に仕事が集中し、疲弊してしまいます。