ポストコロナの新世界#7 SDGsPhoto:

産業界でサステナビリティー(持続可能性)の重要性が増す中、利益創出との両立をいかに図るかは、もはや企業の生命線を分ける一大課題だ。特集『ポストコロナの新世界』の#7では、ROE(自己資本利益率)とESG(環境・社会・企業統治)を掛け合わせた指標を新たな経営目標に掲げるなど、ユニークな取り組みが目立つ明治ホールディングスの川村和夫社長を直撃。新指標を導入した狙いや背景から、同社が進める新型コロナワクチンの最新の開発状況、以前にも増して人権の重要性が高まる時代の新サプライチェーン論までを明かしてもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

明治はROE×ESG=「ROESG」を新指標に
財務・非財務目標の両立を目指す

――今年5月に発表した2021~23年度までの新たな中期経営計画で、ROEとESGの考え方を組み合わせた「明治ROESG」という独自指標の導入を掲げました。これは具体的にどんな指標で、いかなる背景から導入を決めたのでしょうか。

 20年の初めごろに新たな中期経営計画を策定する際、企業価値を巡る評価軸が昨今大きく変わってきた点を、いかに社内へ植え付けられるかが重要だと思っていました。というのも、従来の財務的な指標や収益率から、非財務的価値や環境リスクへのレジリエンス(強靭=きょうじん=性)に重きを置く流れが明らかに強まっています。そうした点をきちんと認識して対応しないと、企業としての永続性をもはや保てないのではないか。そこでまさにポイントとなるのがESGへの取り組みです。

 当社もサステナビリティに関するビジョンや目標値を掲げています。ですが、指標として目標を挙げる場合、どうしてもROEのようなものと受け止められがちです。社内でも機運が少しずつ高まる一方で、実現が極めて重要だという域にまでは達していませんでした。

 そんな中、約2年前に伊藤(邦雄)先生の講演で「ROESG」(ROESGは一橋大学大学院・伊藤邦雄名誉教授が開発した経営指標で同氏の登録商標)という言葉を知りました。

 財務的指標のROEと非財務的な価値であるESGを二項対立ではなく、同時に実現すべく経営目標に組み込むというROESGの考え方を面白く感じたわけです。

明治ホールディングス・川村和夫社長かわむら・かずお/1976年明治乳業入社。99年経営企画室長、2007年取締役。12年、前年の事業統合により商号変更した明治の代表取締役社長および明治ホールディングスの取締役就任。18年より現職。 Photo by Kazutoshi Sumitomo

 ただし、伊藤先生考案のROESGの考え方をそのまま当てはまると、当社の実態に即さないところもあります。このため当社なりの解釈を行い、明治ROESGではまず、ROEと5つの外部評価機関によるESGスコアを掛け合わせます。

 それに加えて、社会課題に対する認識を社員にも身近に感じてもらうため、健康寿命の延伸や健康志向食品の売上高の成長率といった六つの「明治らしさ」と銘打った指標の達成度合いで加点する仕組みとしました(編集部注:中計では、明治ROESGを20年度の9ポイントから23年度に13ポイントへと高める目標を掲げている)。

 明治らしい独自の目標には、健康寿命の延伸やタンパク質摂取量、インフルエンザワクチンの接種率など、当社が取り組むだけでは達成に直結しない指標が含まれます。ですが、それらの項目の実現に向けて貢献する活動が、目標達成につながっていくのだと説明しています。

 こうして最上位の経営目標に明治ROESGを置き、財務的な利益指標の達成と、ESG活動の充実を同時に目指しています。これはESGを企業としてしっかり達成するのだという社員へのメッセージであるほか、投資家や社会に対して、われわれの企業目標がこういう点にあるのだと発信したい狙いもあります。

――ESGへの取り組みが、企業価値の一つの形態である時価総額向上につながるかについては、国内外で明確な実証データが得られていないとの指摘もあります。