まだ起こっていない未来を想像して、
不安でしんどくなるのが止められないAさん

 人は、いろいろ悪い考えが止まらなくなるときが誰でも多少はあります。しかしその思考が暴走し、自分の想像した恐怖に飲まれたとき、心の病気になります。

 新型コロナウイルスが流行り出してすぐの頃、その対策で「自分で最悪のイメージトレーニング」をして、倒れてしまったAさんという人がいました。

 当時、新型コロナウイルスは完全に未知のウイルスだったため、感染予防対策の正しい情報がありませんでした。マスクやアルコールなども不足していた中、Aさんは人と接する機会が多い受付の窓口担当をしていました。

 日々アクリル板が職場に増設されたり、布マスクを自分でつくってみたりしながらも、対応している相手がもし新型コロナウイルスの感染者だったら、と思うと不安がつのります。徐々に「もし自分が仕事でコロナにかかったら、同居している家族に移してしまうかもしれない。どうしよう」と不安になり、帰宅することにストレスを感じ出しました。

 結局、家に帰るまでにいろいろな所(駅などの人が多く集まる公共の場所)に寄るほうが感染リスクが高いと判断し、発作的にホテルに飛び込み、そこから会社に通勤することにしました。ところが、Aさんはホテルの生活になじめず、夜になかなか眠れない日が続き、結局体を壊して実家に戻るしかなくなりました。

 しかし、実家の自室でもいろいろ想像して眠れません。

「接客していた人がコロナだったら?」「同僚がコロナだったら?」「電車で隣の人がコロナだったら?」

 Aさんは、考えても仕方がないことを考えることが、もう自分では止められなくなっていました。そして、「こんなに眠れなかったらうっかり寝ると目覚まし時計で起きられないかもしれない。下手に寝たら会社に遅刻してしまう」と、眠ることすら恐ろしくなりました。

 あげく、「もし会社をクビになったら、お金がなくなってしまう。日用品を買うのも大変になる」と心配し、自宅のお風呂で石けんやシャンプーを使うこともできなくなり、家族に付き添われて受診に至りました。