「一番悪いことを想像しておけば、
現実はそれよりマシ」は危険
精神科では、このような不安を主訴に受診に来られる方は少なくありません。
皆さんも大なり小なり「こんなこと、将来起こって欲しくないな」ということを想像することはあるでしょう。しかし限度を超えて「こんなことが将来起こったら、怖くてもう何も手がつかない!」と、起こってもいない未来を先取りして不安に押しつぶされそうになることを、精神科では「空想的な精神病性不安=予期不安」と言います。
Aさんは、目先の「コロナにかかったらどうしよう」という起こり得る現在の話を飛び越えて、起こるかもわからない暗い未来を空想し、とらわれ、今このときの問題にすら取り組めなくなってしまったのです。
この例は極端なものですが、これは誰しもが持っている傾向でもあります。Aさんは元々物事を悲観的に考えやすく、「一番悪いことを想像しておけば、それより悪くなることはないから、日頃から最悪のケースを想定する生活をしていた」そうです。
「一番悪いことを想像しておけば、現実はそれよりマシ」というのは、割と多くの方がやっている「しんどい人生への備え」だと思います。
しかし、こうした思考のクセづけをして生活することは、あまりお勧めできません。もしも、バランスが崩れたときに、Aさんのように自分の悪い考えに自分自身の思考が乗っ取られてしまう危険があるからです。
実際、大体の人は未来を想像するときに、アンラッキーなことを考えがちです。
「今日家から出たら突然、家の目の前に一万円札がギッシリの財布が落ちていたらどうしよう。それを交番に届けたら、たまたま届けた交番にすごいお金持ちの落とし主がいて、お礼に札束を渡されたらどうしよう…」という悩みで受診した人はいません。
若い人であれば、「今、私先輩と目が合った。絶対合った。あれは私に気があるんだわ、キャー!」なんていう、お花畑のような正の妄想をする人もいるでしょう。
しかし、こういうポジティブな妄想力は、年をとると共にだんだんと衰えていきます。だからなるべく「マイナスな想定」をするクセは、若いうちにやめるべきです。
今、この瞬間があなたにとって一番若いので、今日からやめるようにすれば間に合います。
POINT:
「一番悪いことを想像しておく」というトラブルへの
備えはやらなくていい。
元内科の精神科専門医 中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。 精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー4万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。