だが、ガイドラインが厳格に守られる保証はない。

「実は、片頭痛持ちであることを公言している人気芸能人が、『すごく効いた』と公言して以来、ガルカネズマブを求めて受診する患者さんが全国で増えています。私自身が処方する場合は、頭痛の症状を脳波で確認した上で、既存の治療を行い、脳波所見がある程度改善しているにもかかわらず、それでも痛みに対する不安感から月に10回以上、トリプタン製剤を服用してしまうような患者さんに対しては、一度軽い痛みを忘れさせ、不安感を取り除くべく、処方するようにしています。

 使い方は非常に難しいし、問診で患者さんの自己申告に頼っていたら、不要な患者さんにまで薬を使ってしまう可能性が大きい。それを防ぐためにも、必要のない人には必要ないと、脳波を見せて説明する必要があると思います。いい薬であることは間違いないですが、乱用されてよい薬ではありません」

「正しい診断」を広く普及されるため、若手の育成にも力を入れる。

「全国に30人ほどいる僕の弟子たちはみんな、脳波を診ます。患者さんの脳の状態を正確に評価することで、診断にも役立つし、薬の必要量、減らすタイミングや止めるタイミングも分かる。頭痛のガイドラインに示されているよりも、ずっと少ない量で治療できる。

 頭痛専門医の仕事は、生命をしっかり守りながら、脳過敏状態に陥ることなく、脳が穏やかな状態で老後を過ごせるようにしてあげること。だから、僕のところに学びに来る若い医師には、『頭痛を診るにはまず脳を診よ』と教えています。その手がかりが脳波を診ることであり、頭痛の治療につながるのです」

(監修/東京女子医科大学脳神経外科頭痛外来客員教授 清水俊彦)

清水俊彦(しみず・としひこ)
東京女子医科大学脳神経外科頭痛外来客員教授、獨協医科大学神経内科臨床准教授。1986年、日本医科大学卒業。東京女子医科大学脳神経外科学教室入局。1998年、東京女子医科大学脳神経外科 頭痛外来講師。2004年、獨協医科大学神経内科講師。2011年より、現職。現在、東京女子医科大学をはじめとする複数のクリニックで頭痛外来を担当。月に一度は伊豆大島にも診療に出かけている。