「ジョブ型」こそチームワークが重要なのはなぜかPhoto:photo AC

日本企業が「ジョブ型」へ舵を切ることにより、キャリアの前提となるゲームのルールが変わりつつある。そのルールを知っているかどうかで、キャリアの戦い方が変わってくるのである。コーン・フェリーの加藤守和氏が執筆した、書籍『「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略』は、「ジョブ型」へ移行しようとする日本企業に共通する課題や、日本型雇用や労働慣行との兼ね合いなどを解き明かす。その上で、これからキャリアを構築しようとする20~30代のビジネスパーソンに向けて、個人が自立的なキャリアを構築していくための実践的な方策を提言する。

「職務内容に書いてあること」だけをおこなうのがジョブ型?

「ジョブ型」にシフトすると、チームワークが損なわれるのではないか、という意見を聞くことがあります。「ジョブ型」では、個々の職務(ジョブ)が定められるため、自分の職務(ジョブ)以外に協力する動機が起きにくいというのがその論拠です。

 確かに、そのような側面がないわけではありません。しかし、個々のキャリアの観点からすると、「ジョブ型」だからこそ、チームワークは重視すべきです。それは、どうしてでしょうか。

「ジョブ型」では、各人に個々の職務(ジョブ)を割り振ることになりますから、当然、個々の職務(ジョブ)を各人にやり切ってもらうことが大前提です。ここで、押さえておきたいのは、「ジョブ型では、職務記述書(ジョブディスクリプション)に書いていないことはやらない」という誤解です。職務記述書とは、職務内容について会社(上司)と社員が合意した文書ですが、必ずしもすべての業務が網羅されるものではありません。ある程度、抽象度の高い表現にならざるを得ず、上司と部下の間で認識合わせをしながらおこなうものであり、「書いてあることしかやらない」というのは、まったくの誤りです。

 ここで述べる業務としてのチームワークについては、2種類あります。職務遂行上で求められる業務連携などのチームワークと職務間の空白地帯で誰が担うか不明瞭な業務を拾うチームワークです。

 前者の業務連携のチームワークは、職務(ジョブ)によって求められる程度はだいぶ変わります。他職務との協働が密接に求められる職務もあれば、そうではない職務もあります。ただいずれにおいても、組織において職務が個々に完結することはほとんどありません。「ジョブ型」において、前工程・後工程など、関連する職務(ジョブ)と連携するのは仕事のうちです。むしろ、必要な協働・連携をできないのであれば、満足に職務(ジョブ)を果たせないと周囲から判断されかねません。職務に求められる業務連携はキッチリとおこなうことが、「ジョブ型」では欠かせないのです。

 後者の職務間の空白地帯をフォローするチームワークは悩ましいところです。「ジョブ型」は個々の職務範囲を明らかにしますが、職場の現実では、日常的に新たな業務が発生します。そのなかには、誰に分担するか曖昧なものも出てきます。

 自分の本業である職務(ジョブ)が満足に果たせないなかで、周囲へのフォローを優先させて自分の職務(ジョブ)を全うできないと、職務不適格とされかねません。ただし一方で、組織においてすべての職務はつながっています。明確に自分の職務(ジョブ)に関連していないからといって、逃げ回っていると周囲から不興を買ってしまいます。そうなると、スムーズな仕事の連携は難しくなり、なかなか成果を上げることはできません。また、逃げ回ってばかりの人に良質な機会を提供する人もいません。ですから本業である職務(ジョブ)を果たしつつ、周囲のフォローも進んでおこなうくらいの心持ちが重要なのです。