2021年9月5日、東京・お台場エリアのランドマークと言える一つの施設が18年の歴史に幕を下ろす。「東京お台場 大江戸温泉物語」は閉館のその日まで、変わらず営業を続けていた。ただ一点、それまでとの違いがあるとすれば、閉館直前にそこを訪れた筆者を、18年分の人々の思い出が詰まった感動的な光景が出迎えてくれたことだ。なぜお台場大江戸温泉は長きにわたって多くの人々に愛されてきたのか。感謝の気持ちとともに振り返る。(フリーライター NordOst〈松島広人〉)
お台場のランドマーク「大江戸温泉物語」
9月5日、惜しまれつつ閉館へ
テレコムセンター駅という、東京湾岸エリアの江東区青海にあるやや殺風景でデジタルな場所に降り立つと、すぐに私たちを迎えてくれた暖かい施設が「東京お台場 大江戸温泉物語」(以下、お台場大江戸温泉)だった。
2003年の開業以来、オリエンタルな江戸情緒と良質な温泉を存分に楽しめる場として、国内外の多くの人々で連日賑わいを見せたテーマパークが、21年9月5日をもって閉館となる。ニュースを耳にしたときの「また新型コロナウイルスの影響か…」という嘆息は私の勝手な思い込みにすぎなかった。都と運営企業(大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ)が結んだ事業用定期借地権設定契約の期限終了に伴う撤退が正式な理由となる。
当時の借地借家法では契約の最長期間が20年間と定められており、営業継続のための努力を重ねたものの、法律の壁を越えることはかなわなかったようだ。ホームページ上の告知文からは、閉館とその理由を伝える簡潔な文面の奥底に秘められたスタッフの真摯で実直な姿勢が伝わってくるような気さえして、それを目にしたファンなら大きく心を動かされただろう。