とっとと会社を辞めるのが最善の策だったが…

 この話でCさんにとって一番の問題解決の方法は、すぐ会社を辞めることでした。

 ところが、誰もが知っている有名企業に入社したと自他共に思っているので、Cさんはその決断ができません。

 何より周囲も「甘えてるんじゃないか」「仕事に感情を入れるなよ」と、Cさんの辛さを理解するどころか、責めるような言葉を投げかけてきます。

 Cさんは、完全に八方塞がりになりました。

「金融業界に勤務するうえで成功するためには、会社の利益のために資金を動かすことも必要なことだ。お客さんには不誠実であったとしても、会社でしっかり利益を出し、評価されるようにならなければ一流の金融マンにはなれない」

 それが生きていくうえで正解か、不正解なのかは別問題です。

 そういう職業があり、実際、それで利益を得ることは違法行為ではありません。損をしそうな投資案件だって本当にできる人なら、そこで利益を叩き出し、会社もお客さんも大満足! となる人もいます。

 ただ、ここでハッキリ言えるのは、その仕事がCさんの性格には明らかに向いていなかった、ということだけです。

 結局、Cさんは1年経ってから、会社を辞めることになりました。

 1年辛抱した結果どうなったかといえば、Cさんの落ちてしまった自己評価、失われた自尊心を取り戻すのに、2年以上の歳月が必要でした。仕事も長くできない状態が続きました。

 これは“たられば”の話ですが、もしCさんが「この仕事は向いてないな」と思ったときに、「もっと自分に向いてる仕事をしよう!」と頭を切り替えて半年で転職していたら、多分Cさんの自己評価や自尊心は、そこまで損なわれることはなかったでしょう。

 Cさんの話を、自分や周りの人に置き換えて、考えてみてください。

 自分に向いていないことを継続しようとしても、いつか破綻するなら、切り替えるのは早いほうがいいんです。

 なかなか決心はつかないと思いますが、この事実を頭の片隅に置いて日常生活を振り返ってみると、何か新しい発見があるかもしれません。

 POINT:
 本当に毎日がしんどいなら、その仕事は自分に向いていないのかもしれない。

「向いていないかも」と思う仕事を辞める勇気を持つために、知ってほしい思考のメカニズムバク@精神科医
元内科の精神科専門医 中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。 精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー4万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす​生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。