だから営業は面白い
金沢 考えてみれば、営業って不思議な仕事ですよね。商品を売っているのはこちら側なのに、いい仕事をすればお客さまから「ありがとう」と言ってもらえるわけですから。こちらももちろん「ありがとうございます」と伝える。こうして「ありがとう」の連鎖が起こりやすいのが営業という仕事だと思います。決して、毎日毎日、やりたくもないことをやってヘコヘコするのが営業ではない。
高橋 そうですね。「営業」というとどうしても、ノルマに追われて、お客さまに頭を下げて、断られて……といったイメージがつきまといます。
でも今、私が思う「営業」という仕事は、「目の前の人に気持ちよく動いてもらうこと」なんですよね。それが最も大事なエッセンスで、「買ってもらうこと」は「気持ちよく動いてもらうこと」の延長でしかない。
そして「目の前の人に気持ちよく動いてもらう力」って、人生においてとても大切なものだと思うんです。だって、それは営業に限らず、夫婦関係でも、家族関係でも、友人関係でも、なんでも一緒じゃないですか。ものすごく普遍的な話だと思うんです。
営業という仕事は、そんな大切なことを、給料をもらいながら鍛えてもらうことができる。まさに営業は、人生の可能性を広げてくれる仕事だと思います。営業の素晴らしさがいろんな人に伝わったら嬉しいですね。
金沢 同感です。高橋さんの新著『気持ちよく人を動かす』も読ませていただきましたが、すごい勉強になりました。僕自身、テレビ業界にいた時代は、名刺さえあれば誰もが会ってくれて、それは「自分自身に魅力があるからなのだ」と勘違いしていました。でも違った。保険の営業マンに転身した途端、人の態度は激変し、誰も会ってくれなくなりました。
そのとき、それまで自分も「会いたい」という人の誘いを断っていたり、街中でティッシュが配られていても無視して受け取らなかったりしていたことに気づいたんですね。
今では、「会いたい」という人がいたら、たとえ15分でも20分でも時間をとって会うことにしています。それがたとえ、興味のない商品の営業であっても、会って断ることにしています。会わずに断られるより、会って断られたほうがまだ嬉しいことは、自分が身をもって体感しているからです。
営業マンになったからこそ、それまでの自分を省みることができ、もっと人に優しくしようと思えた。営業は人生を豊かにしてくれる仕事だと思います。(おわり)