“伸び悩む人”は「方法」をなぞり、“伸びる人”は「思考」をなぞる
金沢 ただ、「マニュアルなんていらない。目の前のお客さまに真摯に向き合っていれば、自然と結果はついてくる」という考え方のぼくは今、「営業マンを育てる」という大きな壁に直面しているんですよ。
ぼくは昨年、プルデンシャルから独立し、会社を起業したんです。その一環として営業チームをつくったのですが、そのメンバーを育てなければならない。ですが、人を育てるのは難しいものですね。自分にとっての「当たり前」が人とはまったく違うことに今更ながら気づきました。
相手に自分と同じことを求めてはいけない。でも、自分と同じような結果を出してほしい。どのように育てればよいのか……と悩んでいるときにちょうど出会ったのが、高橋さんの『無敗営業』だったんです。この対談の第1回で「自分が無意識でやっていたことが言語化されている感覚を得た」といったのは、そういうことなんです。
高橋 トッププレイヤーだった営業マンほど、後進の営業マンを育てるのは難しいんですよね。
金沢 たとえば「先方にメールを送る」という行動ひとつをとっても、ぼくは「あえて商品の話をしない」とか、そういうことを無意識に、何気なくやっていたわけです。
商品を売ることではなく、お客さまと接点を持ち続けることがまず大事なんだと。でも営業マンの中には、メールで一生懸命に商品の売り込みをして、次のアポを催促して、結果嫌われてしまう人もいる。
ぼくの感覚では「そんなメールを送ったら、そりゃ嫌われるよ。普通に考えたらわかるだろう」と思ってしまうのですが、ぼくの「普通」を伝えるのが難しい。その点『無敗営業』は、売れる営業マンの「普通」がすべて言語化・体系化されているから素晴らしいんです。
高橋 私は金沢さんとは真逆の性格で、「営業ができない」どころか「人付き合いができない」ところからスタートしました。そのぶん、ほかの人と比べると、試行錯誤の種類も量も半端ではないんだと思います。
たとえば、ある商談で、お客さまの話を聞きながら、お聞きした情報を整理して、自分のノートにまとめていたんですね。たまたま大きめの文字で書いていたものですからそれがお客さまの目に留まり、「高橋さんのまとめはわかりやすい。そのノート、写真に撮っていいですか?」と言われたんです。
「そうか、これがウケるのか」と嬉しくなったぼくは、それから「今度はもっと大きなノートを買おう」「今度はスケッチブックにしてみよう」「模造紙にしてみよう」とどんどんエスカレートさせて、お客さまにドン引きされることになります(笑)。
普通の人はあまり、こんなことを試さないと思うんですね。でも私は「普通のコミュニケーション」すらいっぱいいっぱいの人間でしたから、いろいろ試していかなければ「普通」がわからない。「あれもダメ、これもダメ」というような失敗を山ほど積み重ねたからこそ、営業ノウハウが自分に蓄積されたのだと思います。
金沢 すごくわかります。ぼくも、自分なりにあれこれと試行錯誤した末に、自分なりのやり方を確立してきました。いわば、めちゃくちゃ遠回りしながら、自分なりの成功法則にたどり着いたわけです。
ところが、世の中には効率的に「正解」を知りたいと思っている人が多いように思います。だけど、「効率」や「合理化」という言葉には気をつけたほうがいい。そもそも「無駄」を知らなければ効率化はできません。無駄を知っているから、「もっと効率的にできないか」と考えて効率化が生まれるんです。最初から効率化しようなどと考えるのは、ただ「楽」がしたいなんじゃないですか? 失敗したり、無駄なことをさんざんやるからこそ、本当に大切なことがようやくわかるんだと思うんです。
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
1979年大阪府出身。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍。大学卒業後、TBS入社。テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。
高橋 まさに、そのとおりだと思います。実際、研修の受講者さんの中には、「どうすれば、今日高橋先生がおっしゃっていたことをもっと効率的にできますか?」と質問する人が一定割合います。
だけど、仕事で高いパフォーマンスを発揮している人はそのような質問をせず、「このとき高橋さんは何を考えながら行動していたんですか?」と、ぼくの頭の中を覗いてこようとします。
あまり成果を出せていない人ほど、ショートカットの道を聞いてくるんです。「ショートカットの道はまぁ、あるにはあるけど……それをやってもうまくいかないよ?」と思いながら一応、お伝えするんですけどね。
金沢 よくわかります。「どんなトークをしているんですか」「どんなクロージングをしているんですか」ということばかり聞いてくる営業マンと、マインドを質問してくれる営業マンにはっきりと分かれますね。
お客さまに同じ言葉を発するのでも、ぼくと高橋さんとでは相手への伝わり方が違うんだと思うんです。それは、その言葉を発するまでに進めてきたやりとりによって、その言葉の意味が変わるからなんです。そこまでの「文脈」が大事なのに、商談の一部分だけを切り取ったトークを知りたがる人が多い。そして、えてして、そういう人はなかなか成果が出ないものですね。
高橋 「失敗や無駄が大事」「マインドが大事」という言葉を出すと、その言葉尻だけをとらえて「なんだ、精神論か」と言う人がいると思うんですね。それで、「もっと具体的なノウハウを教えてくれる人はいないか?」と探し求める。そういう人は、なかなか成長できないんじゃないでしょうか。
一方、「失敗や無駄が大事」「マインドが大事」とはどういうことなのか、もう少し金沢さんの頭の中にある世界を知りたいと思って質問してくる人は、「失敗や無駄が大事」「マインドが大事」という言葉の奥底が理解できる。目に見える情報だけで判断するのか、その奥底にある裏側・背景まで理解しようとするのか。営業マンとしてパフォーマンスに差が出るのは自明の理ですね。