「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用(不信感)」。企業であれ、スポーツチームであれ、リーダーであればドロドロした人間関係を避けては通れない。組織を支配するこれらの要素に着目し、心理学から脳科学、集団力学まで、世界最先端の研究を基に「リーダーシップと職場の人間関係」を科学的な視点でひもといた画期的な1冊が『武器としての組織心理学』だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。
情報共有の2つの落とし穴
先の読みにくい状況の中、答えがはっきりしない課題に対して、リーダーは意思決定をしなければなりません。
正解か不正解かわからなくても、それが、そのときのベスト解だと信じて進むには、チームのベクトルが合っていることが大前提となります。
意思決定やチームのベクトルを合わせる際に情報共有が重要であることは言うまでもありませんが、ここには注意が必要な2つの落とし穴があります。
(1)「情報が足りていない」という錯覚
まずはっきりしているのは、職務遂行においての情報は、量の問題ではないということです。
現代では、たくさんの情報が常に流れています。
この溢れ出ている情報量に飼い馴らされてくると、私たちは、慢性的な情報の不足感に襲われるようになります。
問題を解決するための情報は実はすでに手元にあるのに
「まだ足りないのではないか」「まだ他にも必要な情報があるんじゃないか」
と外を探し回るのです。
この現象は、あるビジネスゲームをしているときに観察できます。
そのゲームでは、チームのメンバーがそれぞれ情報カードを持っています。
断片的で、内容表現が異なるこれらのカードの情報を口伝えし、1つの地図を完成させていきます。
チームの中の情報を十分に吟味すれば正解を導けるにもかかわらず、情報が足りないという思い込みが完成を阻むのです。
そして、課題が解けない時間が長くなると、そもそも解けないのではないかという疑いがメンバーの心を支配し始めるのです。
(2)「私は伝えた」という既成事実づくり
他にも情報共有の問題でありがちなことは、ありとあらゆる情報を峻別することなく垂れ流してしまう現象です。
例えば、職場で伝達ミスや情報不足を責められないようにしようとして、自分は伝えたという既成事実をつくるためだけのメールです。
そのようなメールは、受信ボックスに届けられた時点で即死状態です。
情報の量を増やすだけでは、生産的な活動、とりわけ創造的な発想を生む活動を望むことはできません。
「独自情報」が共有されているか?
もしも創造的な活動や重要な意思決定を推進しようとするならば、どんな情報共有がチームのパフォーマンス向上につながるのか、またどのような条件が整っていると、情報共有そのものを活性化させられるのかということを知っておくことです。
職場のパフォーマンス向上につながる有効な情報の共有には、大きく分けると2種類があります。
一つは、情報をオープンにして共有すること。
もう一つは、独自情報を共有することです。
経営学者のマグナスたちは、それまでに報告された論文を集めてメタ分析を行いました。[1]
その結果、オープンな情報共有は、チームのまとまりのよさや、信頼し合う関係を形成するものであることが明らかになりました。
また、パフォーマンスの高さに直接的に影響していたのは、独自情報の共有でした。
情報がオープンになることで醸成される協力的な風土の中では、自分が持つ独自情報をみんなと共有しようと思いやすくなります。
そうなれば、多くのメンバーが独自情報に接する機会が増えるので、結果的にパフォーマンスが押し上げられることになるのです。
脚注[1]Mesmer-Magnus, J. R., & DeChurch, L. A.(2009). Information sharing and team performance: A meta-analysis. Journal of Applied Psychology, 94(2), 535-546.
(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)