菅首相が与える
日本の経営者たちへの教訓

 約1年の菅内閣を一言で総括すると、「期待したが、残念だった」。

 特に総裁選不出馬の表明に至る最後の数日間は、権力維持のためとしか見えない党役員人事を総裁選・総選挙の直前に行おうとするなど、人間として見苦しかったが、これは「首相」という国の最高権力の魔力の顕れなのだろう。

 菅首相が掲げた、アベノミクスの(金融緩和の)継承、行政の効率化・デジタル化、携帯電話料金の引き下げなどの政策は悪くなかった。しかし、国のリーダーとしての行動にいくつか決定的な不足があった。これらの不足には、日本の経営者が陥りがちな典型的な弱点が表れているので、簡単にまとめておこう。

 組織・集団のリーダーとしての菅氏の不足だった点は、ことわざに言う「見ざる・言わざる・聞かざる」に集約できる。

 彼は、任期中の最大の問題だった新型コロナウイルスに関して不都合な現実を直視しようとしなかった。そして楽観的な可能性に懸けて、的確な手が打てずに何度もぐずぐずと緊急事態宣言の発出に追い込まれて、国民の信用を失った。不都合な可能性や想定できる悪い状況に対する、いわゆる「プランB」を持たないトップは危ない。

 そして、何よりも不足だったのが、トップとして必要な説明や呼びかけに当たって効果的な言葉を持たなかったことと、それを発しようともしなかったことだろう。

 例えば、首相就任当初に起きた日本学術会議会員の任命拒否問題では、「人事だから」を理由に説明を拒否して、内閣支持率を10ポイント程度無駄に下げた。その後、コロナ対策についても東京オリンピックの開催についても、国民は菅首相から十分な説明を受けた気持ちにならなかったはずだ。これは、賛否以前の問題といえる。

 そして、コロナなどの重要問題について、専門家の意見を十分聞いたようには思えない(専門家に対しては失礼な態度もあった)。政権末期には、世間の声も聞こえなくなったようだ。