菅退陣に見る下克上ストーリーの限界、自民党が総裁選で生き返るにはPhoto:Pool/gettyimages

菅義偉首相が、自民党総裁選に立候補しないと表明した。「延命」のために、直前まで必死に「権力」を振るっていたが、党内から不満が噴出し、ついに「退任」に追い込まれてしまった。これまでの安倍・菅「一強」体制は、逆に自民党を弱体化させてしまっている。ここから自民党は奮起できるだろうか。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

権力行使をしてきた菅氏になかった「数の力」

 菅氏が首相就任前に、対立する官僚や政治家を解雇したり干したりできたのは、彼のバックに党内の多数派を掌握し確固たる党内基盤を持った権力者がいたからだ。

 官僚や政治家にとっては、権力者に「忖度」することが重要だった。そうすれば選挙に負けないし、ポストも得られる。だから、菅氏の冷徹な「政治手法」に不満を持つ者はいても、誰も表立って菅氏に楯突こうとしなかった。

 一方、最高権力者である首相になれば、バックには誰もいない。菅首相自身の支持率が下がり、「選挙に勝てない」ことが明らかになれば、誰も言うことを聞かなくなる。首相の最強の権力である「衆議院解散権」を行使しようとしても、止められてしまった。「人事権」を使って脅しても相手にされなくなったのだ。

 要するに、菅首相が官房長官として振るってきた「権力」を、首相として振るえなくなったのは、菅首相自身が、党内に確固たる「数の力」という基盤を持っていなかったからだ。

 そこで、菅義偉という政治家が、「強引な権力行使」という政治手法を取り続けたことを考察してみたい。それは、世襲議員ではなく、裸一貫から首相に上り詰めた経歴からきている。