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この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「世論にふわっとした悪口を言う人」を無視したほうがいい超納得の理由Photo: Adobe Stock

[質問]
 学校で「話し合えば必ず分かり合える」「嫌な人とも仲良くしなさい」と教えられた記憶がありません

 読書猿さんのご意見を伺いたい事がございます。

 私は、学校で「話し合えば必ず分かり合える」「嫌な人とも仲良くしなさい」と教えられた記憶がありません。また、国語でも「作者の考えを答えなさい」という問題に出会ったことがありません。

 日本の学校教育を批判する際、これらが槍玉に挙げられる傾向にありますが、本当に敵は学校教育なのか疑問に思います。

 もちろん、私が経験していないだけという可能性を考えました。しかし、小中高とも地方の公立校で、殊に先進的な学校であったとも思われません。

「話し合えば~」「嫌な人とも~」について言えば、内面化した「世間」や「常識」こそが敵だと愚考致します。学校教育を批判することより、自己を内省することの方が重要ではないでしょうか。

 国語の問題に関しては、本当にそんな問題があるのか、批判者の記憶違いなのか、それとも根深い問題があるのかは分かりません。

 読書猿さんは、上記のような批判について、どのようにお考えでしょうか。

ふわっと悪口をいう人に時間を費やす必要はありません

[読書猿の回答]
 前提を覆して申し訳ありません。世代の違いでしょうか、私も公立校出身ですが、どれも教えられたことがありますし、最近復刊した『着眼と考え方 現代文解釈の基礎』という参考書をみると著者の思想を答える問題が出てきます(『現代文解釈の基礎』は『独学大全』第4部で使い方を紹介しています)。

 国語の方をいうと、著者の考えについて感想をいうのでなくロジカルに答えるためには、

語句の照応関係→具体例と抽象的見解の対応→段落の構成→判断の論拠(帰納・演繹)→文全体の主張と論拠の把握→論拠の量と質の配分→価値観の置きどころ→統一的な思想→著者の世界観の分析

 などの積み上げが必要です。

 最近の国語の問題を分析したことがないのであてずっぽうですが、国語の入試問題で要求される水準や国語科で教授される内容が易化しているのでしょうか。

「話し合えば必ず分かり合える」「嫌な人とも仲良くしなさい」については、学校だけで唱えられていた主張というより、文句のつけにくい世俗道徳として多くの大人が深い考えもなしに口にしていたというのが本当のところだと思います。その意味ではおっしゃる通り内面化した「世間」や「常識」に類するものでしょう。

 かといって「話し合いは無益だからする必要はない」「嫌いな人とは絶対に仲良くできない」とだけ教えるのも無責任です。戦争ですら永遠続けるわけにはいかず、どこかでやめるためには話し合いが必要ですし、嫌いだからといっていつも目の前から退けてしまえるわけではないからです。

 世俗道徳もそれを疑う主張も、考えなしに唱えることができますが、問題に直面する当事者は事態をなんとかするために必ず具体的に考える必要があります。いつどんな場合に話し合いが可能/必要なのか、どのように話し合えばうまくいく確率が増すのか、嫌いな人を退けられない場合どうやってやり過ごせばいいのか。

 私達が知りたいことはそうしたことであり、学校や世俗道徳の悪口を言うことや、悪口を言って何事か語った振りをする人たちに費やす時間はただもったいないと思います。