「伝家の宝刀を抜いて、一件落着させた」という風にすっきり解決できていないのが、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCIファンド)によるJパワー(電源開発)株の買い増し計画に端を達した騒動だ。
日本政府は16日、「外国為替及び貿易法(外為法)」の規定に基づき、「公の秩序を乱す恐れがある」ことを理由に、初めて同法の外資規制を発動。現在9.9%の発行済み株式を保有するTCIに対して、Jパワー株の20%までの買い増しを中止するよう勧告した。
だが、期限である今月25日までに、TCIファンドが応諾するかどうかが定かでない。もしTCIファンドが拒否すれば、日本政府は中止命令を出せる。が、それを無視して、同ファンドが株式の取得に動いた場合、外為法には、科せるかどうか疑問の残る非居住者への刑事罰規定が記されているだけなのだ。株式の取得自体を強制力を持って止める手立ては存在しないし、買われてしまった株式を強制的に売却させて現状を回復する規定も存在しない。つまり、実効性となると、外為法はおおいに疑義がある法律なのだ。
まるでTCIファンドの代理人のような論調の大手紙各紙の報道ではほとんど見えて来ないが、Jパワーは、北海道、四国、九州と本州を結ぶ、それぞれ唯一の送電線網を保有する元特殊法人だ。東日本と西日本で異なる電気の周波数を変換する装置は同社だけが持つものだし、世界初という特殊な原子力発電の開発も進めている。他に代替性のない社会インフラを抱えるユニークな企業なのである。
今回の騒動で、政府が批判されるべきことがあるとすれば、それは5年前の同社の民営化だろう。メディアが「いくら自由化が時代のニーズだったとはいえ、ロクな買収策も講じておらず、あまりに安易過ぎた」と糾弾するならば、頷ける話と言える。
もし相手が外資でなかったら
外為法は全くの無力
はっきり言えば、Jパワー株の買い増し問題の教訓は、こうした社会インフラに対する日本の防衛法制がなんとも脆弱であることを浮き彫りにした点にある。
今回のTCIファンドは、たまたまガイシだったから外為法で防衛ができた。これは、ある意味でラッキーなことだったのだ。もし、内資の不心得者がJパワーに食指を動かしていたら、外為法はまったく無力である。日本では、いきなり北海道や四国、九州の電気代が急騰するような悪夢がないと言いきれない状態が放置されているのである。