10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。
「左利き」「右利き」は遺伝?
日本の人口全体で見ると、左利きの割合は約10%と言われています。では、「左利き」「右利き」は、どうやって決まっているのでしょうか。
利き手が定まる理由として、いくつかの説があります。まず、人間は左側に心臓があるため、急所を守りながら右手で戦う必要があったから右利きが増えたという説です。
次に、すでに石器時代には右利きの数が多く、右手を使う道具が多く作られてきたからという環境説。
そして、より複雑な道具を活用し獲物を狩るために、言葉によるコミュニケーションが必要となり、言語脳である左脳を発達させた人類は、左脳が動きをコントロールする右手をよく使うようになったという説もあります。
人類の進化の過程で、なぜ右利きが増えたのか、確実なことは明らかになっていません。しかし「右利き」「左利き」を決める要因として、遺伝子の影響が少なからずあると私は考えます。
McManus, I. C. & Bryden, M. P. 1992*の統計結果を見ると、両親が共に右利きの場合、子どもが左利きの比率は9.5%。右利きと左利きの親の組み合わせからは、19.5%の確率で左利きが生まれます。そして、親が二人とも左利きの場合は、子どもは26.1%の確率で左利きになるのです。
実際に私の家族でも、息子は左利きですし、妹の息子も左利きです。左利きがいるファミリーには左利きの子どもが生まれやすいと感じています。
ただ、利き手を決定づける遺伝子はまだ見つかっていません。一方で、左利きの人だけに見られる遺伝子のグループがあることは、少しずつわかってきています。また、子どもの頃は左利きだったのに、右利きに矯正した人も少なからずいるでしょう。私も、もともと左利きでしたが、右手が他の人のように思うように動かないのが嫌で、自ら右手を使うようにしていた時期があります。つまり、今の段階では「利き手」を決めるのは、遺伝の可能性に加え、生まれたあとの環境の影響があると考えられるのです。
(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)
参考文献
*:McManus IC. Bryden MP. The genetics of hand- edness and cerebrallateralization. In Handbook of neuropsy- chology, vol. 6 (ed. I. Rapin & S. J.Segalowitz), pp. 115-144. 1992 Amsterdam: Elsevier.
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com