2020年3月、外資企業の大攻勢に苦しむ「出前館」に、30代の若きマーケターがやってきた。元キックボクサーにして、15年間にわたりネット広告やマーケティングの世界に身を置いてきた藤原彰二氏。DX(デジタル・トランスフォーメーション)を積極的に進め、IT業界で注目される人物だ。同年6月には同社ナンバー2の取締役/COOに就任して大胆な社内改革を敢行。ダウンタウン浜田雅功を起用した「スーダラ節」の替え歌CMを世に送り出し、売上・利用者数・加盟店数の飛躍的な拡大につなげた。そこまで明かして大丈夫? というくらい出前館の改革を詳細に記した藤原氏の初の著書『それっておかしくね? 「素朴な問い」から始める出前館のマーケティング思考』(ダイヤモンド社)を参考に、ビジネス成功の秘密を学ぼう。

会社 面接Photo: Adobe Stock

自分に合う環境がある会社なんて、ほぼゼロ

僕は、「マーケターは色々な業界を経験すべし」「他業種から学ぶべし」と唱えていますが、それは必ずしも、「今いる職場が合わないならどんどん転職しろ」ということではありません。僕自身も何度か転職していますが、それはその会社である程度のことをやり切り、もっとやりたいことはあるけど今の職場ではそれができない――と感じての転職です。マーケターは問題解決業なので、問題が解決しないうちに辞めてはいけません。

だから、はっきり言っておきます。「職場の環境(上司や部下との相性など)が合わないだけだから、別の環境に行けばうまくいくはずだ」と思って転職したら、最後です。

自分に合う環境がある会社なんて、ほぼゼロなのですから。

以前、同じ会社の方(Aさんとします)が僕に、怒り混じりにこんなことを訴えてきました。「私の下に入ってくる派遣さんの質が悪くて、どんどん辞めていくんです」。そして「派遣さんって、こうあるべきじゃないですか」と僕に熱弁したのです。

僕は、それは間違いだとAさんに言いました。

僕らは派遣さんを選ぶことはできますが、30分やそこらの面接でその人のことが全部わかるわけではありません。だから、ほぼ知らない人なんです。そういう意味では、生まれてくる赤ちゃんを選べないのと同じ(そして、赤ちゃんも親を選べません)。

もしこの派遣さんが辞めたとしても、次に来る方がAさんのお眼鏡にかなうかどうかなんて、わかりません。偶然、たまたまAさんが「合う」と思った方に来てもらっても、いずれ辞めたら、また次に来る方がどうかはわからない。確率が低すぎる。

これは、配属された先の上司や部下との相性や、アサインされたチームメンバーとの相性にも同じことが言えます。配置なんていつだって変わるし、相性がいいと思っていた上司や部下なんて、会社の方針でどんどん替わる。ある瞬間、一時的に、「誰かとたまたま相性がいい」ということなんて、何の意味もありません。

だから、転職した先の上司と相性が良くても、何ヵ月後かに上司が替わるかもしれない。そうしたら、また同じことが起こります。

結局、狙って「ベストな環境」に居続けることなんて、永遠に望めない。だから、環境を理由に転職するのは、まったくナンセンスなのです(もちろん、パワハラやセクハラを働く人については除きます)。

じゃあ、どうすればいいか? 環境を変えたいんだったら、自分自身が環境を変える権限を持つくらい、偉くなるしかない。ハードルが高いように思えるかもしれませんが、でも実は、それが一番効率のいい「環境の変え方」です。

仮に職場環境がものすごく悪い会社だったとしても、そういう会社は皆がどんどん辞めていくので、最終的に残った人が上に上がっていけます。そして権限を持ったところで、環境からシステムから(ブラック企業的な体質があれば、そういう点まで)全部変えてやればいいのです。

チャレンジする人が常に“正しい”

僕は、中途採用の面接では、「今の会社がこういう状況だから辞めたいんです」と言う人を、あまり採りません。前の会社を悪く言う人や、「前の会社では私の力を活かしきれなかった」と言う人は、僕も活かしきれないと思いますし、というか、永遠に誰も活かしきれないと思うので、ごめんなさい。次に行った職場でいい人に出会えるといいですけど、その確率は相当低いと思います(と、心の中でつぶやいています)。

多分そういう人は、古い大企業よりスタートアップに行ったほうがいい。まだ何も確立されていない組織ですから、自分で環境づくりもできるし、早めに権限が持てますから。その分、倒産するリスクもありますが。

でも残念なことに、「合わなかった」で転職を繰り返す人は大手に行きたがる傾向が強いので、いずれにしろ無理だと思うのです。

僕が面接で聞きたいのは、もっとポジティブな理由です。

「常々、この業界でこういうことがやってみたかったんです」「まだどこも出していないサービスのアイデアを、御社のインフラを使って実現してみたいんです」

少なくとも、僕がいるインターネットサービスの業種全般においては、こういうチャレンジ精神のある人が“正しい”のです。

これからの時代、ネット系の企業が人を採用するにあたっては、人材会社経由ではなく、直応募を重視していく方向に舵を切っていくはずです。なぜなら人材会社経由でやってくる人は「(人材会社に)おすすめされたから、来ました」という人が多いから。その割に、紹介料などのコストがかかってしまう。

そこにコストをかけるくらいなら、発信力の高い人を直応募で選び抜くことにコストをかけたほうがいい。少なくとも、ミドルより上のアッパーなポジションに関して言えば、直応募で積極的なチャレンジ精神なりモチベーションなりをアピールした人が採られるようになっていくでしょう。

「チャレンジ」は精神論ではありません。ソフトというのはハードと違ってすぐに修正したりアップデートしたりできるので、新しい試みを物怖じしてやらないよりは、とにかく早いとこやってみて、チャレンジしてみて、不具合があったら迅速に対応する、くらいの気持ちでやるほうが、うまくいくのです。

「テストしてみて、違ったらすぐ変えようよ」「とりあえず走らせてみて、データを見てからどうするか決めよう」。

こんな会話が日々職場で交わされているのが理想なのです。