職場には「他人に完璧を求める人」と「いつもストレスフリーな人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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ある営業マンの話

 営業のOさんはいまの職場に不満を持っている。

 彼の今期のノルマは「10件の成約」だが、それに関して上司からはこう言われている。

「1件の契約を取るには、10件の商談をしないといけない。
 だから10件の成約には100件の商談をしなさい。
 そして、1件の商談につなげるには、10社に電話をかけないといけない。
 だから100件の商談をつくるために1000社に電話をかけなさい」

 上司の言うとおり1000社に電話をかけ、結果を出している同僚もいる。

 しかし、Oさんは、このやり方はあまりにも効率が悪いので商談の決定率を上げるべきと考え、同僚たちと飲みに行った際に「ウチの上司はバカだ」と陰口をたたいている。

 実際にOさんは嫌々1000社に電話をかけているので、なかなか商談につながらない。

 また、1000社に電話をかけることに時間を取られ、商談の決定率を上げる工夫もできていない。
 よって成果も上がらない。会社ではとても肩身の狭い思いをしているが、「あんな無茶な指示を出す上司が悪い。うちの会社はなんでも“根性”で乗り切ろうとする」と不満をこぼすばかり……。

 本人も心のどこかで「(このままでいいのか……)」とモヤモヤしているが、具体的なアクションを起こせないまま時間だけがすぎている。

不満を抱える人が「他責のストーリー」をつくる仕組み

 どんな組織も完璧ではない。
 不十分な点を指摘し、それを改善する行動は歓迎されるべきである。

 しかし、「全部自責思考」ができない人は、そうした問題の責任が自分にあるとは考えていないので、何も行動しない。

 残された行動の選択肢は「我慢」しかないので、当然ながら「不満」が溜まる。
 だから、組織の悪口を言ったり、そこで働く人を見下したりして、なんとか自分を保つしかないのである。

 しかし、会社に対する不満を抱え込まず、まったく気にしない人もいる。

 ここにはどんな思考アルゴリズムの違いがあるのか?

 結論からいうと、両者では「自分と組織の関係性」の捉え方が大きく異なっている。

 なんでも会社のせいにしてしまう人は「会社の“内側に”自分がいる」と考えている。

 つまり、自分は会社に雇われ、すっかり会社の一部になっているというわけだ。

 この世界観を前提とすると、会社(上司)からの命令は絶対である。
 指示されたことを指示されたやり方でこなすしかない。

「成約10件のために1000回電話しろ」
 と言われれば、1000回電話するしかなくなる。

 だから命令を遂行できなかったり、目標を達成できなかったりした場合、ものすごいストレスがかかる。
 それをなんとかやりすごすには、「命令や目標そのものが理不尽すぎる」といった「他責のストーリー」をつくり上げるしかない。

ストレスフリーな人の考え方

 一方、「悩まない人」は「会社の“外側に”自分がいる」と捉えている。
「勤務先に自分が雇われている」のではなく、「勤務先の会社と『株式会社ジブン』が業務提携契約を結んでいる」という世界観で仕事をしているのである。

 もちろん「株式会社ジブン」は、自分の頭の中だけに存在するバーチャル法人にすぎない。

 だが、1つの思考実験として、自分を「株式会社ジブンの経営者」と見立てると、勤務先との関係性がまったく違って見えてくる。

「雇用主との一方向的な雇用関係」ではなく、「会社同士の対等な取引関係」になるのである。

 会社間の取引では「不満」は発生しない。

 Q社が「ひと月にこれだけの仕事をしてください。それに対する見積りはこの金額です」と提示し、もう一方のR社が「その条件では受けられません」と返答すれば、単純にその話はなかったことになる。

 Q社もR社もそのことでいちいち悩んだりせず、互いに執着することもない。どちらも条件が合う別の会社を探すだけだ。

「株式会社ジブン」と勤務先企業との関係も、これと同じ。向こうが提示する条件がよくなければ、無理して取引する必要はない。
 無理に提携関係を維持して、ブツブツと不平を垂れ流す理由はどこにもないのだ。互いに条件が合う別の取引先=転職先を見つければいい。

人生のあらゆる選択が「経営判断」に変わる!

「株式会社ジブン」を思考グセにできると、仕事の進め方も変わってくる。

 勤務先企業はあくまでも1つの取引先にすぎないので、必ずしも仕事の進め方(プロセス)まで言われたとおりにする必要はない。

 前述したOさんの例でいえば、最終的に評価されるのは「10件の契約を取れたかどうか」だ。

「1000件に電話するよりもいいやり方」があるというなら、「株式会社ジブン」の経営者として、より確実に成果が出せる方法を選択すべきである。

 私自身、リクルートに勤務していたときには、「株式会社ジブン」とリクルートが業務提携しているというマインドで仕事をしていた。

 10件の成約さえ出せばいいので、1000社への電話が非効率ということを上司にわかってもらう必要はない。
 もちろん「非効率だと思う」と言ってもいいが、取り合ってくれないからといってふてくされる必要はない。

 私がOさんの立場なら、「1000社への電話」の部分は「やっているふり」をしてうまくかわしつつ、商談1件あたりの精度をさらに高め、より効率的に「成約10件」を実現する道を探るだろう。

 また、頭の中に「株式会社ジブン」を持っている人は「時間」や「お金」の使い方も違ってくる。
 仕事だけでなく、人生のあらゆる場面において、すべてのアクションが「経営者としての投資判断」へと意味を変えるからだ。

 自分の時間を仕事に当てるべきか、将来のための勉強の時間に当てるべきか、あるいは、家族との余暇に回すべきかなどは、経営者がやっているリソース配分そのもの。

 お金の使い方も同じだ。
 クルマを買うべきか、食器を買うべきか、金融資産として持つほうがいいか──。最も投資効果が高いお金の配分を考えることになる。

他人に完璧を求める人たちの心理メカニズム

「株式会社ジブン」としての思考アルゴリズムをインストールし、自分と会社を対等な関係とみなすと、他人に対して「完璧」を求めることがなくなる。

 一方、自分は「組織の中の一部である」という認識の人は、「学校」「職場」「お店」「公共サービス」「国」などに対して「完璧なサービスやサポート」を求め、少しでもミスや失敗を発見すると怒り出す。

 たとえば、社内システムが不具合を起こしたとき、カスタマー部門の人が不満を持ったとしよう。そして彼は社長に「システム部門の人たちはいったい何をやっているんですか! ちゃんと自分たちの責任を果たすべきですよ」と声を上げる。

 しかし、少し知識がある人ならわかるとおり、システムにエラーはつきもの。バグのないシステムなどありえない。なのにこのカスタマー部門の人は他人に「完璧」を求めてきたのである。

 そこで社長が「では、ぜひあなたがこの問題に対処してください」と伝えると、その途端、彼は尻込みする。「え……私はカスタマー部門の仕事で責任を果たしているので……。システムのことはシステム部門でやるべきだと思います」。すると社長がさらに言う。「では、システム部門に異動してください。そうすれば、この問題に向き合えるでしょうから」。もちろん彼は首を横に振る。「いやぁ……それはちょっと……」。

 国や地方の政治に文句を言い続けている人、商品・サービスに少しでも不具合があると怒り出すクレーマー、学校に無茶な要求をするモンスターペアレントなども同じである。

「こっちはお金を払っているんだから、そっちが完璧に責任を果たすのは当たり前でしょう」が彼らのロジックだ。

 しかし、社会の中で少しでも仕事をしたことがある人なら、完璧な仕事などないことがわかる。その人は勤め先から「お金を払っているんだから、1ミリたりともミスは許さない」と言われたら、受け入れられるのだろうか。

 他人に完璧を求め続ける人は、人生のあらゆる場面においてずっと「お客さん気分」なのだ。どこでも完璧な「接客」が受けられると思っている。

 しかし、現実には完璧な仕事はありえないので、常に期待とのギャップを味わい続け、不満を抱え続けることになる。

 そして、そこから抜け出すこともできない。
「それは私の責任ではないので……」と他人に委ねてしまい、自分の人生のハンドルを自分で握っていないのだ。

 すべてを「株式会社ジブン」としての取引だと考える人は、そもそも「自社」が完璧ではないのと同じように、「取引先」も完璧ではない中で最大限の努力をしてくれていると考えている。

 だから、何か相手方にミスが発生しても、不満は持たない。
 その「会社」と取引するという経営判断を下したのは、ほかでもなく自分だからだ。

 そして「これまでミスが起きなかったのは、きっと御社のがんばりがあったからですね。ありがとうございます」と感謝の念すら持つことになる。

 不満を持っている人が、不満を押し殺すのは無理な話。
 持ち前の「我慢強さ」で対処する人もいるが、そんなやり方は長続きしないし、精神衛生的にもよくない。

 それより大事なのは「不満が生まれないような考え方」を身につけることだ。

「株式会社ジブンの経営者」としてのマインドを身につければ、「すべてを自ら選んでいる」という感覚が得られ、他者に対する不満がなくなる。

 どんなにひどい状況でも不満を持たない人は、決して我慢強いわけではない。
 不満が生まれない思考アルゴリズムを持っているにすぎないのである。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)