新聞の発行を支える輪転機メーカー最大手の東京機械製作所が買収騒動で揺れている。仕掛けたのは、香港金融大手グループが3割強出資していた上場投資会社傘下のファンドだ。両者の攻防は買収防衛策などを巡って激化の一途をたどるが、ファンドの狙いは判然としない。新聞業界は社会インフラを揺るがしかねないと危機感を募らせている。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
新聞社40社が“危機”声明
わずか2カ月強でファンドが4割弱の株を保有
「新聞は日々発行することで社会的使命を果たす媒体。輪転機はいかなる時にも正常に稼働していることが必要だ。貴社の開発・製造体制が変えられてしまうと、新聞各社の印刷・生産体制は致命的な打撃を受けかねない」――。
9月10日、読売新聞グループ本社の山口寿一社長を筆頭に、40社がある会社にこんな書簡を送付した。40社には朝日新聞や毎日新聞、日本経済新聞など大手紙のほか、地方紙や通信社、スポーツ紙も含まれる。日本新聞協会に加盟する新聞社の半数近くが名を連ねたのだ。
全国の新聞社がこぞって憂慮する「貴社」とは、東京証券取引所1部に上場する輪転機メーカー、東京機械製作所である。新聞業界が危機感を表明した背景には、この会社に突如降って湧いた買収騒動がある。
騒動に触れる前に、東京機械という会社について説明しよう。同社は新聞を刷る輪転機の製造・販売を基幹事業とする。創業は日本初の日刊新聞が創刊した1870年からわずか4年後の1874年。同社の歴史は日本の新聞の歩みとほぼ重なる。
現在、国内で稼働する新聞用の大型輪転機の4割以上は同社の製品だ。輪転機を製造・販売するだけでなく、納入後のメンテナンスや故障対応も担う同社は、新聞社にとって新聞を発行するために欠かせない存在だ。
そんな社会インフラともいえる同社が株の買い占め騒動に見舞われたのは今夏にさかのぼる。
仕掛けたのは、東証2部上場の投資会社、アジア開発キャピタル傘下のアジアインベストメントファンド(東京・中央)だ。
同ファンドは6月から東京機械の株式を市場内で買い進めてきた。同ファンドが提出した大量保有報告書によると、親会社のアジア開発キャピタルと合わせた東京機械株の保有比率は当初は8.08%だったが、9月中旬には39.94%に達した。
東京機械は「事前説明なく株を買い進めた」として、8月末に買収防衛策の導入を決めた。アジアインベストメントを除く株主に新株予約権を割り当て、同ファンドの持ち分を薄める狙いだ。
一方のアジアインベストメントは東京地裁に買収防衛策の差し止めを求める仮処分を申し立てた。
攻防が過熱する中で、注目となるのはファンドの狙いだ。そもそも新聞発行に悪影響が出るのではとの新聞社の懸念もそこに起因している。