香港は「生活者で回す経済」に

 鶴見さんの仕事は不動産仲介業だが、そのビジネス環境にも変化が表れる。コロナ禍以前は、多くの日系企業が反政府デモに揺れる政治情勢を様子見していたが、感染拡大を経て国際情勢の見通しが利かなくなる中で、事業規模を縮小あるいは撤退する企業が目立つようになった。在宅勤務も定着した。今の鶴見さんの仕事を回転させているのは、ダウンサイジングを前提とした「引っ越し需要」である。

「旅行やビジネスも含め、海外から香港に来る人もいなくなり、香港経済は生活者だけで回さざるを得ない状況です。不動産賃貸も例外ではなく、厳しい状況が続いています。そんな中でも、『部屋をきれいに使い、家賃の滞納もない日本人に貸したい』というオーナー側のニーズがあるのは有り難いことです。新しく接するオーナーに日本ファンを増やしていく、それが私のもう一つの使命だと思っています」

中国の脅威に香港の日本人が続々帰国、残留する経営者の決断「一国二制度の偉大な方針を徹底させ、 香港の長期的な繁栄と安定を維持しよう」と掲げたスローガン

 金融、観光、物流で繁栄した香港だが、反政府デモの混乱とその後のコロナ禍により、香港経済が受けたダメージは決して小さいものではない。とりわけ、デモが激化する以前の2018年時点で観光客の約8割を中国大陸に依存した香港の観光業は、深刻な状況に陥っている。

 香港特別行政区の面積は1110平方キロメートル、そこには311のホテルがある。香港の面積は札幌市とほぼ同等で、札幌市にも303のホテルがある(2019年7月現在)。しかし、香港の総客室数は8万6700室と、実に札幌市(総客室数は3万3049室)の2.6倍だ。コロナ前夜まで、香港もまたインバウンドバブルに沸いていたのだ。

 中国人客を狙い、無数に店舗数を広げたドラッグストアもシャッターが下りたままだ。香港特別行政区の統計によれば、2019年は2.9%だった失業率が、2020年は5.8%に倍増している。