3倍のスピードで駆け抜けた人生
競技人生は短く、日々厳しい競争にさらされているからなのだろうか。アスリートは、一般の人よりも老成している、などと言われることもある。
犬の一年はヒトの7年分に相当する「ドッグイヤー」なんて言葉もあるけれど、仮にヒトの3倍くらいの速さで競技人生を駆け抜けてきたとすると、たしかに僕は老成していてもおかしくはない。競技そのものが人生そのものでもあった。
そういう意味では、アスリートとして老いを迎え、死に向かって走り続けた僕の経験は、人生の予行演習だったのかもしれない。
誰もが死に向かって走っている
会社員の65歳に比べ、アスリートの引退はずっと早い。セカンドキャリアを考えれば人生を2度、3度と生きる感じだ。嫌でも早いうちに自分の「死」を迎える。
死に向かって日々、人間がひた走っている感覚と、肉体の衰えを感じながら結果が出ないところでも満足を得る感じは、なんだかとても近いような気がした。そして、大事なものは「いつか」の先にあるのではなく、「今」にあるのだと、非常に哲学めいているけれど、幸せだって今この瞬間にしかないんじゃないかと思った。