栄養ドリンクは疲労感を抑えるだけ
「飲んだらきちんと休む」が鉄則

――栄養ドリンクやサプリメントの広告は今も、「抗酸化物質で過剰な活性酸素を除去する」ことが大切だとアピールしています。

 栄養ドリンクやサプリメントに入っていて、これまで疲労回復に効くとされていた物質のほとんどは「抗酸化物質」です。

 われわれは疲労の負荷をかけたマウスに抗酸化物質を与え、心臓、腎臓、肝臓、肺など全身の組織の疲労因子を測定してみました。すると、消えていたのは肝臓の疲労因子だけで、他の臓器の疲労因子は全て残っていました。

「疲労感」を脳に伝える役割を果たす炎症性サイトカインのほとんどは、肝臓で作られることが分かっています。そして、抗酸化物質で消すことができたのは、肝臓の疲労因子だけでした。他の臓器の疲労因子は消えていない。

 つまり、抗酸化物質によって抑えることができるのは疲労感だけで、体中の「疲労」はそのまま残る。

 それなのに、抗酸化物質で疲労感を抑えたまま働いたり、運動し続けたりしたらどうなると思いますか。無自覚なまま全身に疲労がたまり、ある日ぱったり倒れてしまう。最悪過労死に至ります。疲労感は、われわれの体を守るために「休め」と命じる大切な生体アラームですからね。

――昔ながらの、滋養強壮や疲労回復に良いとされる食べ物も抗酸化物質なのでしょうか?

 うなぎ、ニンニク、牡蠣(かき)、緑黄色野菜などすべて抗酸化物質です。ビタミンA・C・E、ポリフェノール、アスタキサンチン、リコピン、全部そう。疲労感は取れますが、疲労を取ることはできません。

――スタミナ食として頑張って食べてきましたがムダだった?

 そんなことはない。余計な活性酸素を減らしていこうというのは別に悪いことではありません。人間が生きていくためには、疲れていても働いたり、勉強したり、運動したりしないわけにはいきませんからね。

――今のところはまだ、疲労回復物質は見つかっていませんか?

 見つけましたよ。「ガンマーオリザノール」という米ぬかの成分と、納豆とチーズに含まれている「ポリアミン」です。あとは「ビタミンB1」も、不足すると本当に疲労することが分かりました。ただし、たくさん取れば良いというわけではない。

 しかも残念なことに、“地味”ですよね。ガンマーオリザノールもポリアミンもビタミンB1も、特に新しい成分というわけでない。うなぎやニンニクと比べても、パッとしない(笑)。

――確かに、疲労回復っぽいイメージは薄いかもしれません。

 そこも、疲労研究の難しいところです。

 ちなみに抗酸化物質で疲労感を取るのは悪いことではありません。脳に行く炎症性サイトカインを減らせば、「うつ病」の引き金も減ると考えられています。

――それは重要ですね。

 抗酸化物質で体の中の炎症性サイトカインを減らすことは、うつ病の予防にもなります。

 問題は、疲労感がないイコール疲れていないと思って頑張りすぎること。栄養ドリンクを飲んでも、ちゃんと寝て、休む日を作ること。そういう正しい使い方を広めたいと思っています。

 栄養ドリンクやサプリを好む人は、だいたいムリをしがちですからね。警鐘を鳴らさなくてはなりません。

(監修/東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授 近藤一博)

近藤一博(こんどう・かずひろ)
東京慈恵会医科大学ウイルス学講座教授
大阪大学医学部卒業後、大阪大学附属病院研修医、大阪大学微生物病研究所助手、スタンフォード大学ポストドクトラルフェロー、大阪大学医学部微生物学講座准教授を経て、現職。同・疲労医科学研究センター教授を兼任。日本ウイルス学会評議員、日本疲労学会理事。
【訂正】記事初出時より以下のように訂正します。
35段落目以降11箇所:elF2α→eIF2α(小文字エルを大文字アイに訂正)
(2021年11月9日20:00 ダイヤモンド編集部)