現在の日本経済は、インフレ率が高くて困っているのではなく、「インフレ率が足りなくて困っている」。だから、財政の収支は赤字拡張的であるべきだし、特定の業界や集団に予算を付けるよりも「公平にばらまく」政策の方が好ましい面がある。

 矢野次官は話題の寄稿の中で、かつて後藤田正晴氏が行った内閣官房職員への訓示の「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」という言葉を引いて、「役人として当然のことです」と述べている。

 岸田氏には、不適切な時期に緊縮財政に傾くのではなく、堂々と適切なばらまきを「決定」し、矢野氏以下の官僚たちに「命令」する首相であってほしい(彼にできるだろうか?)。

 なお、矢野次官は、文春誌上で自らを「心のあるモノ言う犬」だと表現している。官僚は(加えて銀行員も)しばしば犬に例えられるが(いずれも「序列に敏感な生き物」であるから)、自ら「犬」を名乗る官僚さんは珍しい。財政に対する意見は筆者と全く合わないが、面白そうな人だと思う。時々吠えてほしい。