「強制力のない緊急事態宣言」でも日本で感染者数が減少した理由Photo:PIXTA

ワクチン接種が功を奏して新型コロナ感染者、死者が劇的に減少している。もちろん、ワクチン接種が進んでも感染者が激増した国もあり、今後も再び緊急事態宣言を発出しなければならないかもしれない。そこで、これまでの緊急事態宣言の効果を考えてみたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

人流とコロナ感染者

 緊急事態宣言の目的は、人々の外出を制限して人流を抑制することである。人と人が接触しなければウイルスには感染せず、感染者が減少するからである。緊急事態宣言と感染者数、死者数(作図のために100倍してある)と人流の関係を見ると図1のようになる。ここでの人流は、Google COVID-19:コミュニティ モビリティ レポートによる。

 人流は、小売店と娯楽施設、食料品店とドラッグストア、公園、乗換駅、職場、住居に分かれているが、うち乗換駅がもっとも人流をよく表していると考えた。乗換駅が感染源となっているというのではなく、人の集まるところに乗換駅を使って集まるから、人流の多寡を計る良い視標になるということだ。人流は、コロナ以前と比べて何%変化したかという指標である。

 人流の減少で人と人との接触が減少すれば、潜伏期間の1~2週間遅れて感染者が減少するはずである。図1を見ると、人流が減少して2~3週間してから感染者数が減少しているようである。ただし、2021年7月12日に発令された緊急事態宣言では、少し遅れて人流が減少しているにもかかわらず感染力の強いデルタ株のために感染者数は増加していった。

 ワクチン接種の効果で死者はそれほど増加せず、9月以降は感染者も死者も激減している。これらのことは想定通りであるが、注目すべきは、実際に緊急事態宣言が発出される前から人流が減少していることである。