自分の頭で考える経験が足りない
林教授 そこに気がつけば君はもう一人前だ、と言いたいところだが……。
カノン 何が不足しているのでしょうか?
林教授 自分の頭で考える経験だよ。そこで、提案だけどね。一度お父さんにこのレクチャーに参加してもらおうと考えているんだ。
カノン 父から何か教わるのですか?
林教授 そうではない。君とお父さんとで会計の議論をしてもらいたいのだよ。
カノン ディスカッションでしょうか?
林教授 そうだ、議論だ。思いっきりお互いの考えをぶつけ合ってもらう。
カノン 先生がそんなことを考えていたなんて青天の霹靂です。
林教授 実はね。レクチャーの中で、君がお父さんや会社のことを度々口にしたので気になっていたんだ。もしかして、君の代まで持たないかもしれないってね。
カノン ドキッ。先生、冗談がキツすぎます。
林教授 ボクは真剣にそう思っている。だから君だけでなく、君のお父さんにも会計の重要性をわかってもらいたいのだよ。
カノン そういうお考えなのですね。
林教授 おそらく君のお父さんは、君が考えている以上に手強いと思うね。
カノン 手強いって、先生は父をレクチャーに誘ったのですか?
林教授 昨日のワイン会でね。お嬢さんと経営と会計のお話をしましょうと誘ったんだ。
カノン 父は何て言っていました?
林教授 次期社長としての心得を教えるいい機会ですな、と感謝されたよ。
カノン そうですか。父は私と会計を議論するなんて、これっぽちも思っていないでしょうね。
林教授 会計についても自信がある、と言ってた。それからね、「オヤジの凄さを教えてやる」とかなり気合が入っていた。
カノン そうですか。望むところです。
林教授 そうこなくては。これで決まりだ。面白くなってきた。では明日3時にボクの事務所に集まってくれたまえ。議論の後は、君のお父さんにもらったロマネコンティを空けようじゃないか。
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。