5億ドルを投じた案件がうまくいっていない。追加で1億ドル、成功確率は5%――数字だけ見れば「やめる」が合理的なのに、人はなぜ続けてしまうのでしょうか?
楽天グループ代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏をはじめ、Google元会長やZoomの創設者も絶賛する世界的ベストセラー『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』をもとに解説します。
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「あなた」の一言が判断を鈍らせる
私たちはよく、ワークショップに参加する経営幹部に、数々の投資判断を促すアンケートに回答してもらう。
こうした調査をするのは私たちが初めてではないが、結果を見るたびに驚かされる。
では、その投資判断事例の一つを紹介しよう。
2年前、あなたはあなたの会社を代表して、あるプロジェクトに5億ドルを投資する判断を下した。
これまでのところ、利益は実現していない。
あなたの投資をどうすべきか、いままさにあなたは検討しているところだ。
あなたはプロジェクトを打ち切ることも、プロジェクトに追加資金を投じることもできる。
今日時点の投資コストは1億ドルだ。
その投資が成功すれば、あなたの会社の粗利益は1年で10億ドルになる。
あなたの投資が失敗すれば、会社はまったくもうけを出せない、つまりあなたの会社の粗利益はゼロになる。
あなたの成功の確率は5%だ。
先を読み進める前に、時間をとって考えてみてほしい。
あなた自身の判断を下してみよう。それはどんな判断だろうか?
合理的な対応は単純明快だ。結局のところ、10億ドルに5%を掛けると、期待粗利益は5000万ドルにとどまる。
よって、投資コスト1億ドルを差し引いた後の期待純損益は、5000万ドルの損失となる。
つまり、これはまずい投資判断だ。
銀行に現金を預けておいた方がまだマシだろう。
銀行が利息をまったく払わなかったとしても、少なくとも1億ドルは維持できる。
だが、初期投資額の5億ドルについてはどう考えるべきだろうか。
どの経済学者も言うように、5億ドルはすでに消失している。
もう失われたのだから考慮すべきではない。
ここでの唯一の適切な判断は、これ以上は投資せずに損失を認識することだ。
しかしこれは、こうした場面で多くの経営幹部が下す判断とは異なる。
平均してほぼ半分のワークショップ参加者が、低いオッズや不都合な計算結果を無視して、投資続行の判断を下すのだ。
幹部たちは無意識のうちに、10億ドルの奇跡がすでに失った5億ドルを取り戻す助けになることを期待している。
タスク記述書に「あなた」や「あなたの」という言葉が9回も使われ、その判断を極めて個人的なものにしているため、その期待はより大きくなる。
あなたがあなたの損失を取り戻すチャンスを逃せば、それはもうあなたの責任だからだ。
当然、この計算結果を順を追って説明すると、それがまずい判断だと誰もが認める。
個人の問題へのすり替えが、こうしたコミットメントのエスカレーションを招く鍵となる。
代わりに、最初の投資判断をしたのは「あなた」ではなく同僚や前任者だと言われたら、参加者が損失を取り戻そうとさらに資金をつぎ込むことはまずない。
人は他の誰かのではなく、自分自身のコミットメントをエスカレートさせるのだ。
(本記事は『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』から一部を抜粋・編集しています)







