これはダチョウ倶楽部の伝統芸「熱湯風呂」をイメージしていただければわかりやすい。素直に熱湯風呂に浸かろうとしている上島竜兵さんを突き落としても何も面白くない。しかし、「押すなよ、絶対に押すなよ」としつこく訴える上島さんの背中を押すので盛り上がって「芸」として成立する。

 金正恩氏もこれをよくわかっている。日米韓から「ミサイル発射するなよ、発射したらただじゃおかないぞ」と強く警告されればされるほど、ポチッとやる時に大きな衝撃がある。北朝鮮ここにあり、と存在を世界にアピールすることができる。まさしく父・金正日氏の代から続く、伝統の「ミサイル芸」と言っていい。

 だから、米韓の軍事演習などでは必ずミサイルを飛ばす。そしてもうひとつ格好のタイミングが選挙だ。

 日本でも韓国でも対北朝鮮政策は極めて大きな政治的イシューだ。選挙になれば、候補者は必ず訴える。有力議員はテレビに出演して、コメンテーターと激論もする。そんな時に日本海にミサイルを落とせば、日本全国に散らばった候補者たちが「北の脅威」を朝から晩まで演説をしてくれる。そのPR効果たるや凄まじいものがある。

 要するに、広告代理店やウェブマーケティング会社の人間がちょっと前、何かとつけて口にした「バズらせる」ことができるのだ。